やぁ、久しぶりだね
そんな言葉を君に掛けたら、君は間違いなく嫌な顔をするだろう。それに君のセコムが黙っちゃいない。喉が潰れるくらいの怒号を俺に浴びせながらきっと人外極まりない行動に出るに違いない。俺としてはこのまま君にアイツが溺れに溺れて抜け出せなくなったところを上手く突くっていう作成が一番ベターだとは思うけれど、何となくフェアじゃないと…俺だって思うんだよね。
そう、俺は愚かで脳ミソ足りん子ちゃんな人外に君を奪われた。温めてた計画がパァになったのを知った時、俺は絶望した(何処かで聞いたセリフだよねぇ)。俺の計画はこうだ。
君の計画に乗って、信頼性を得る。
同時に鴉を使ってシズちゃんを落とす。
君の計画が終結する時に、鴉の計画を公表して滅茶苦茶にしてやる。
傷ついた君を俺が慰める。
邪魔くさいオヤジは金で解決、出来なきゃ君を上手くコントロールすれば解決する。つまりは排除。
俺と、君の、二人ぼっちの出来上がり。
……の、筈だった。
だからシズちゃんはちゃんと鴉に落ちてくれていると安心していた。第一にあの夜、シズちゃんは鴉をきちんと選んでいたじゃないか。傷ついた君は俺を選ばなかったけど、それも時間の問題だって俺は思っていたのに。シズちゃんは本当に俺の予想を超えることをしでかしてくれるよ。まさか君を選ぶなんて。
「名無し、今日は寿司にするか」
「ダメだ。帰って親子丼作るからな」
「何でだよ、寿司食わせろよ」
「静雄が公共物壊さないで、ちゃんと借金が返せたらな」
「それ言うか?」
「言うぞ」
「このやろう」
「へへ」
夜になっても絶えずに人が入り乱れる60階通り。珍しくもバーテン服じゃないシズちゃんが君の手を引いて歩いているのを見つけた。こんなに近くに俺が居るのに気付かないなんて馬鹿もそこまで堕ちたなら何と呼べば良いんだろうね。あぁ、歩くペース考えてやらないと名無しが可哀想じゃないか。俺ならちゃんと君に合わせて歩くよ、名無し。…そうさ、君も俺に合わせて、
“…人を愛しているなんて言うのは、愛していない証拠だ”
今更になって君の言葉が胸に突き刺さる。あぁ、君を俺は愛した。それはいつからだった?出会った時?一緒にカフェで話した時?君がシズちゃんを好きだと言い出してから?シズちゃんに奪われてから?もっと早く、そう…もっと早く頭なんて使わないで馬鹿みたいに、シズちゃんみたいに本当に馬鹿みたいに君を求めて足掻いたら、君は俺の寂しさに気付いてくれたあの瞬間の様な優しさを俺に注いでくれていたのかい?
「名無し、…幸せ?俺は、君の言う通り…今も寂しいままだ」
沢山の問いの中から選んだ小さな問いかけを一つだけ、楽しそうに笑う君の背中に送る。そうさ、足掻くことを知っても…今となっては、全て手遅れだ。
気が付いたら俺は、独りぼっちだった。
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上手くいかないこともあるって折原は知れば良いよ