まさか今此処で事の全てをあたしが暴露するとは思わなかったのだろう。情報屋が目を見開いてこっちを見つめる。平和島静雄も門田もみんなみんな、見ている。あたしは何だか子宮がキュッと痛んだ気がしたけれど、それは嬉しくて堪らない高揚感の現れだと感じていた。金色の妖精だけは、ヴァローナだけは無表情で少しだけ恐ろしさを感じたのは確かだけれど、その恐ろしさだってあたしには十分な快感だった。これから平和島静雄の絶望に歪んだ顔が見れる、愛に満ちたその表情でイってしまえるかも知れない。



「本当に、言うつもりなのかい?」

「決めてたより少し早いけど…ギャラリーも多いし、良いんじゃない?」



視線をヴァローナに移すと、彼女は一瞬微笑んだ。あたしは情報屋の心配を余所に彼女の手を引いて今まで2回くらいしか作ったことないような満面の笑みで今までのことを話すように言う、小さな白磁の様な形の良い耳に。彼女は小さく頷いてから流れる様な動作で平和島静雄に近寄り、それから恋人がするそれと同じようにギュッと抱き付いた。平和島静雄は訳が分からなくて瞬きを繰り返している。そんな可愛い姿もまた良い。早く、歪んでしまえ。ぐちゃぐちゃに歪んだ彼を早く、



「……愛している。この気持ちは初経験、しかし確実」

「…………ヴァローナ?」

「え…?」

「ねぇ、名無しちゃん」

「ヴァローナ、契約が違うじゃない!早く平和島静雄を絶望に、っ……五月蠅い黙れ情報屋、今あんたには、」

「だから名無しちゃん、人の幸せ奪っちゃダメじゃないか」



一体何が、起こってる?

ヴァローナが平和島静雄に偽りの愛を伝えて、平和島静雄が絶望して、それで、あたしは満たされる。そういうシナリオの筈だ、あたしはそうする為に汚いバイトだってしてヴァローナに報酬を払っていた。全部全部全部、この瞬間の為に。

だけど、どうして、情報屋が笑っているんだ?



「そんな顔になるのも仕方ない。一番びっくりしてるのは名無しちゃんだからね。いやぁ…そんな顔も可愛いなぁ。でも名無しちゃんは甘かった、君は人を騙すの向いてないよ。最初から全て話してあげるのは俺の方だ」

「情報屋、貴様…っ!」



さっきまでの心配したような状態とは裏腹にへらへらと笑いながらあたしに近寄ってゆっくり抱き締めてくる情報屋。彼は赤い瞳をキラキラさせながらあたしを見つめてくる。平和島静雄がヴァローナにキスを強請られている中、門田達も他の人もそしてあたしも…起きている事態に理解できないまま呆然と立ち尽くしていた。

情報屋から香る匂いの片隅に、あの夜に嗅いだ赤いマニキュアのシンナーが重なる。赤い瞳の中に部屋の床にこびり付いて変色していた黒い染みが浮かぶ。頭に“いつでも味方だから”と低い声が響く。



「あの赤鬼の依頼ならやらない訳にいかないだろう?それに君の計画よりずっと楽しそうだったからねぇ!赤鬼との利害の一致から生まれた計画さ。名無しをシズちゃんなんかには渡さないって事。本当に烏がシズちゃんを好きになったのは嬉しい誤算ってやつだ。分かるかなぁ?あ、ぶっ飛んでて分からない?」

「…おい、ノミ蟲!手前何言ってやがるっ!」

「シズちゃん、君は可愛い可愛いヴァローナを手に入れるってシナリオに踊らされていたんだ。だけど2つルートが並行して存在していた。最後に溺愛するヴァローナから化け物と罵られて君が絶望するルート、君がヴァローナと結ばれてハッピーエンドのルート」

「…絶望、?…ハッピーエンドだ、と?」

「私は後者の目的を遂行。任務中に静雄への確固たる思念に遭遇、及び受容に決定。目的に誤差無し。依頼人名無しには滞りない前者目的を演技、オリハラからの指示と報酬を受理」

「…だから、名無しちゃん。人の幸せを邪魔しちゃいけないってよく言われるんだ。分かったかい?」



あたしは情報屋からふらりと離れて、ガードレールに腰掛けた。遠くでさっき見送った高級車がテールランプであたしを笑いながら走り去って行った。今までずっと、あたしは何をしていたんだろう。平和島静雄を絶望させて、結局どうしたかったのかも分からない。愛って何だろう。何の為に毎日毎日毎日頑張ってたんだろう。あたしは独りだ、そう考えたら…涙が子供みたいに止まらなくなった。



「……名無し、お前」

「ごめんなさい。でも、ハッピーエンドだから良いでしょうっ?良かったな、化け物なのに愛されたじゃないかっ」

「名無しっ!」

「……いつから、あたしは間違ってたんだ…?愛って、何なんだ、」



平和島静雄が、滲んだ世界で…光って見えた。

















楽しくなって来たな←



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