赤鬼さんは本当は赤林って名前らしくて。それから身体を求めることも喋ることもなく、赤林さんはあたしを抱き締めて満足したように眠った。あたしも何だか気持ちが楽になって、ぐっすり眠れた。

翌日、昼食までご馳走になってから西口公園でお別れ。また辛くなったら連絡しなさい、いつでも味方だからと渡された紙切れに書いてある携帯番号をあたしは携帯に登録しつつ駅を抜けて60階通りへと歩く。休日の池袋は通常よりも人が多くて、あたしは暑さと人混みに早くも酔っていた。あと少し歩いたら住宅街に入れるから、楽になれ…る、



「おい」



ガシッという効果音が相応しいくらいに何かに頭を掴まれて、視界が暗くなった。あたしはゆっくり顔を上げて相手を見る。クソ暑いのに目深に帽子なんて死活問題だと思う、そんな見覚えのあるお兄さんがいた。



「ドタチーン、ナンパにしてはワイルド過ぎじゃない?」

「そうッスよ!ワイルドはタイガーだけで充分!」

「私はバニー派だけどねん」

「いやいや、スカイハイも負けてないッス」

「お前らいい加減にしろ。…それより、大丈夫か? お前、静雄にひっついてた奴だろ?」



ハーフっぽい人と黒い人が騒いでるのを制止しながら帽子のお兄さんは顔を覗き込んでくる。新手のナンパじゃなかったのかと内心納得しながらも、持てる限りの力で頷く。お兄さんは、あたしの両脇に手を入れて抱き上げるとワゴン車の真ん中の席に座らせた。ちょっと経って、差し出されたのは苦手なコーラララ。あたしは渋々飲んでから、顔を盛大にしかめた。



「顔色悪かったからよ、引き止めた。いきなり悪かったな。それより大丈夫か…?」

「…門田。平和島静雄の高校の同級生。タイル張り?」

「そうだ。よく知ってるな」

「平和島静雄は門田を敵と思って無いから、興味あって」

「…お前、本当にあいつが好きなんだな」



何かを知っているみたいに、お兄さんはあたしを見つめて小さく笑った。顔色が良くなるまで座ってろとあたしに居座るように言うので、あたしは大人しく従う。昨日から人様に色々と優しくされてるから、何となくおセンチになってしまって。異常に早い雲の流れを見つめて考えた。あたしは平和島静雄が絶望してるところを見たいだけなのに、好きとか周りにはよく分からないことを言われる。好きとかじゃないのに。愛してるのに。絶望、してるのに。



「名無し、お前門田に感謝しろ」

「え?」



視線を傾けると不機嫌な顔の平和島静雄がいた。あたしはびっくりして目をぱちぱちとさせる。そんなあたしを見つめる平和島静雄の後ろに立つ門田とハーフと黒い女。



「…平和島静雄、仕事クビになったのか?」

「んな訳ねぇだろ。門田から連絡もらってわざわざ俺が迎えに来てやったんだろ」

「どうして?」

「あ゙?」

「平和島静雄はあたしの親じゃないし、彼氏でもない。門田、お前の判断は間違ってるぞ」

「口閉じろ、喋るな」



門田もハーフも黒い女も、何か楽しそうに笑っててムカつく。あたしはコーラララを置いて立ち上がり、平和島静雄を睨んでそれから門田を睨んだ。そしたら平和島静雄がいきなりあたしの口を、ひよこ口にするみたいに摘むので、ジタバタ藻掻いて抵抗する。けど結局力尽きてちーんと大人しくなるしかなかった。そんなあたしを見て平和島静雄も笑って、それはそれで何かもやもやしたからきっとムカついてるんだと思う。



「静雄。加虐行為、日本人女性に対してはセクハラという行為に匹敵。名無しという女史、無事帰宅させるの目的であるので速やかな対処を所望します」

「あ、悪い悪い。そんな怒んなよ」



鈴のような声が聞こえると共に摘んでいた手をパッと離された。あたしは痛む頬を擦りながら、平和島静雄が歩み寄る相手を見た。可愛い顔立ちにキラキラ光るブロンドの髪。紛れもなくヴァローナだ。あたしはずっと前に感じたチクチクする痛みをまた胸に感じて、二人を見ていられなくなった。行くぞ、と平和島静雄に腕を掴まれて…あたしはコーララララを手に取り平和島静雄に向かってぶつけ、地面に倒れそうになる。悲しくて、苦しくて、辛くて、この気持ちが何なのか分からなかった。



「…名無しちゃん、見ーっけ」

「いぃぃぃざぁあああやぁああああああああ!!!!!!!!」

「シズちゃん、今日は休戦しよう。名無しちゃんを連れて帰るだけだから、すぐ消えるよ」

「ふざけんじゃねぇええ!!!!」

「名無しちゃん、もう何も見なくていい。終わりにしよう…こんな事、」

「臨也、手前聞いてんのか!!」

「平和島、黙れ。いくら寛容な俺でも今はお前を構ってやる余裕は無い」

「!」

「…名無し、もうお終いにしよう。疲れただろう?」



吐き気を兼ねて嗚咽しそうになったあたしを支えたのは、イラつくあの情報屋だった。何でここに居るのが分かったのか、何で助けたのか、何でお終いにしようだなんていうのか。あたしはまた分からないことが増えて、嫌で堪らずに情報屋も突飛ばした。真っ昼間に60階通りの脇道と言えど要注意人物を含めての揉め事とあればギャラリーも少なくは無く、けれどそんな事も気にせずにあたしは叫んだ。



「こんなに観客もいるから…終わりには最高かもな!」

「終わり…だと?」

「名無しちゃん、此処で?」

「…話してあげるよ、全部。あたしの愛する平和島静雄の為にさ」

















最終回はまだまだずっと先ですけどね←

この連載、読んでくれてる人いるんだろうか…

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