やぁ、君もよく飽きないね。

こんな乱雑に歪んだ物語…聞くに値しないのにさ。

あぁ…分かってるよ、君の“雇い主”の事を知りたいんだろう?

全く熱心な仕事振りには感謝するよ。敬ってるんだ、そんな怖い顔しないでよ。



そうだ、で…何処から聞きたいんだっけ?

赤のこと?
赤は彼女の何か?

そんなの簡単。

赤は彼女の、
彼女は赤の、


血球、DNA、繋がり。


はぐらかしてなんかいないって、安心しなよ。ちゃんと説明するから。



赤はね、今からずっと昔…恋に堕ちてしまった。

けどそれは叶わぬ恋だったよ、それがきっかけで赤は片目と同じ様に人間にとって大事な“何か”を抉られた。

赤はそれから毎日狂った様に僅かな繋がりを探して探して探して探して探して探して探して、そして終わると虚しさに吠える。

そんな事が続いたある日、一人の女が身籠っていると告げて来た。


「この事は誰にも言わないで、二人の秘密にしましょう? 私にも貴方にもそれが良いと思うの」


その女には旦那がいた。

赤との子供を旦那の子供として育てたいとの女からの申し出を、赤は受け入れたよ。

大きな腹をしている、一度は自分の腕に抱いた女の幸せを奪う気にはなれなかったんだ、今更って感じだね。

だから人間は面白……
分かってる、きちんと話すよ。



赤はそれから鬼への道を進んだ。

女はそれから母への道を進んだ。

それで上手くいく筈だった。



けど産まれた子供は物心付いた時から、歪に囚われて育つ。そう、歪な愛に囚われて、ね。

女は幸せの為に目を閉じて過ごした。

旦那と娘から香る、湿った夜の匂いに気付かないフリをして過ごした。

本当に、幸せや平穏に固執する人間は時に狂気を孕む。だから楽しい、人間は何て愛しいんだろうね。



えっと…ここで、君が知ってるあの事件に繋がるわけさ。

女も耐えられなかったんだろうね。

子供は歪な愛を受けたおかげで絵に描いたような闇を纏うようになった。

あいつを思い浮かべると闇を纏うなんてカッコいい感じに聞こえるから似合わないなって思うけど…まぁ本当にそうだから、我ながら良い比喩だと思うよ?



で、その…闇子な訳だけど。

赤が黙っちゃいないのは何となく想像がつくね?

今までずっと、自分の血の繋がった彼女を…赤は見ていたんだ、びっくりするくらい冷静に。

けど…闇子には自分を教えないで過ごしていた。

赤はただ血の人形を眺めて感傷的になることで幸せを感じていた。

だけどそんな幸せを奪われたんだよ、二度…ね。

一度目は偽物の歪な愛情に闇子が独りぼっちになってしまったこと。さぞや胸を傷ませただろうね、けど赤は我慢した。闇子を普通の中に沈ませていたかった思いからね。



けど二度目でとうとう動いた。

自分の腕に闇子を抱くと決めたんだ、血の人形を愛でて生きる決心がついたんだよ。


二度目が何かって?

名前も出すのも嫌なんだから察してよ。君の標的さ、分かったかい?



今頃どうしてるんだろうね、親子水入らずってところかな?

気になって眠れそうに無いよ!

これだから人間を愛することはやめられないんだ、あぁ…愛してるよ。人、ラブ!



あ、もう帰るのかい?

残念だ…まぁ良いよ、満足したなら代わりに相応の報酬を頼むよ。
君は大切な駒だからね。



…………俺は、三度目かな。

三度目の正直。
仏の顔も三度まで。

なんてね。なんせ、赤を敵に回したら厄介そうだからなぁ…。

でも、くたびれかけてるオッサンにあんな面白い玩具をみすみす渡す程、俺は優しくない。

それにシズちゃんに渡すなんて、もっての他だ。



あー…、君を引っ掻き回すのは俺だけで充分なのになぁ。

ねぇ、名無し…?

君を人間としても化け物としても、



愛してるよ。











折原www



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