何か暖かいものを感じた。額に、目蓋に、鼻先に、頬に、唇に。一瞬、つい一ヶ月前に真っ赤になりながら自分に告白をしてきた恋人の情けない顔が浮かんだ。まだ仕事で残っていたのだろうか。いや、それにしては遅過ぎる。それよりも、彼はこんな官能的な甘ったるい匂いをしてはいない。もっと…あれ、どんなだっけ。


「で、…何で居んだ。」

「僕とした事がさ、忘れ物しちゃって。明日はオフだろう?だから、ね。」


まだ重たいままの目蓋を開けたら、視界いっぱいに胡散臭い笑顔を浮かべた半イタリアンがこちらを覗きこんでいた。高い鼻が顔に刺さってしまったらどうしようとか間抜けなことを考え、ゆっくりと起き上がりベッドを背もたれに座る。忘れ物を取りに来たからというだけで寝ている監督にキスを降らす選手が何処に居るんだよ。そんな皮肉を頭に響かせながら、奴を見上げる。何だ、こいつはこんな顔を普段していただろうか。

近々に迫る試合。何としても勝たなければならない。俺達ETUのGIANT KILLINGの為に。そこで連日連夜、相手チームの試合を分析してる訳で。だが睡魔には勝てずいつの間にか眠りについていたらしい。まだ頭が上手く動かない。胡散臭い笑顔だった彼の顔はよく見たら、恐ろしいまでに寂しげだった。ダメだ、分からない。


「タッツミー、今度こそ僕を目立たせてくれるんだろう?」

「おー。」


絶対活躍の場をくれないつもりだなと考えたらしく眉間に皺を寄せてこちらを睨むジーノ。おー、怖っ。あまり決まってはいないから分からないと素直に伝えてやれば、幾分か柔らかくなった表情でため息を吐き、彼はベッドに座った。


「何かあったのか?浮かない顔して。」


追うように見上げれば、彼はまた泣きそうな寂しげに歪んだ表情をしていた。胸に何だか掴まれた様な小さな痛みが走り、無神経にも問いかけてしまった。頭が働かないせいもあるのかもしれない。そう考えたい。

問いかけたにも関わらず、彼はそれから暫く黙り込んでいた。DVDの再生が終わった真っ暗な画面のテレビをぼーっと眺めて。時々女みたいに長い睫毛が微かに震えていて、今にも泣いてしまうんじゃないかと錯覚する程だった。


「悪かった、聞」

「寂しいからだよ。」

「…は?」

「暗闇に居るんだ、寒くて深い其処に。光を求めて手を伸ばしても、それは一時的に身を暖めるしか作用しない。けど、暗闇に押し潰されてしまうくらいなら…馬鹿みたいにその小さな光を求めてしまうのもアリなんじゃないかって思うんだよね。」


言葉が出なかった。どうしたら良いか分からなかった。そりゃ恋人の顔は浮かぶ。ありありと。だけど今、目の前で光を求めて寂しいと嘆いてる弱い彼を、誰が突き放せるだろうか。

俺は立ち上がり、彼へのフラッシュになってやろうと決めた。




(辛いよ、)
(大丈夫だ、そのうち、)

(抜け出せる)








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ジーノは色んな人に光もらってます(ビッチ設定です←