「堺、さん…。」

「何だよ。」

「今日、飯食いに行きませんか!俺、良い店見つけt…」

「悪い、アイツ心配だし帰るわ。また今度な。」

「あ、…はい。」



遠ざかる背中を見つめながら、俺は拳を握りしめた。どうして俺はこの人が好きなんだろう。どうして好きになっちゃったんだろう。堺さんには現在、身籠っている可愛らしい奥さんが居る。一度、家に遊びに行った時、花の様に笑う可愛い人だなって思ったのを覚えている。幸せそうにはにかむ堺さんの顔も。それに俺のこんな気持ちは、きっと軽蔑されるに決まってる。だったら眺めているだけでも関わっていたい。

思えば、俺がめちゃくちゃ悩んでた時…堺さんがぶっきらぼうにも言葉を掛けてくれたあの時から好きだったと思う。自分がスタメンでなかなか試合に出れなくなって、それに代わって入った俺がうじうじ悩んでいるのを見て。憎んで当然だと思うのに、自分をしっかり受け止めて…更には俺を元気付けてくれた。

でっかい人だなぁって、何かが熱くなって。その背中を無意識に追いかけていた。そんな毎日。何も発展なんか無い、毎日。今だって、あの人の中には足の先だって入れやしない。でも、良いんだ。これで……。



「セリーは、若いから追いかける事しか出来ないんだね。故に不毛だ。」

「……王子ッスか。」



車のキーを指先でくるくると回して弄びながら近寄って来たのは王子だった。王子は何を見ているのか、何処か淋しそうに笑っていて、俺はこの人も同じように不毛なナンタラに絡み付いて生きているんじゃないかなと思った。しかし、相変わらず長い睫毛だな。鼻も高けぇし。そんな王子は、堺さんを思う俺に気付いているんだと思う。

言われた言葉が、重くのしかかる。



「言ってしまえば良いよ。馬鹿みたいに正直に。セリーはまだ若いんだからさ。」

「は?」

「彼なら、きっと全部受け止めてくれる気がするね。君を見捨てたりしない。」

「……全部、受け止めて…。」

「そう。大丈夫、それで傷ついたら僕の自慢の椅子に座らせてあげても良いよ。」



王子が赤いマセラッティに乗り込む姿を見つめながら、俺は今言われた言葉を噛み締めていた。

王子の言う通り、堺さんはきっと俺を軽蔑して見捨ててしまうなんて酷いことはしないだろう。残酷な程に優しい人だから。だからこそ壊したくない。優しい堺さん、大好きな堺さん、幸せな堺さんを壊したくないんスよ、王子。






(俺は馬鹿なのに馬鹿になれない)














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例のベテラン組事件(仮)を受けて、世良と気持ちが重なって生きるのが辛い私です。

堺さんっ…!

あ、ジーノはナッツで不倫経験者なのでこの手の恋愛は上級者という事で絡ませてみましたw

きっとETUは不毛な恋がぐちゃぐちゃしてると思う。幸せなのはゴトタツとキヨカタぐらい←

スギクロとか考えただけで号泣します←


とりま事件を認めたくない私です。