「もう、戻らないだろ。」

「そんな事っ!…書いてあるんだ、絶対帰って来るって!」



泣きながら震えている夏木の奥さんを、部屋の端で支えている村越。椅子に座って、目を閉じたままコーヒーを啜る会長。回って来たそれを眺めながら、淋しそうに眉を下げている有里ちゃん。アイスを片手に、ブラインドの隙間からフィールドを眺めている達海。そんな達海の言葉に、声を荒げてしまった俺。

電気の点いていないミーティングルームは、もうずっと送り続けていたメッセージの返信である簡素な手紙を表す様に、静まりかえっていた。

無機質な白い手紙。少ない言葉の羅列。俺は二人を信じたかった。だって未だに信じられない事態だと思っているのは俺だけじゃないだろう?あの夏木が奥さんや子供を見捨ててまでジーノと駆け落ちなんて。俺は飄々としたままで結末を知っているかの様に言葉を漏らした恋人に食い付いてしまった。情けなさから、すぐに頭を下げて壁にもたれる。もしかしたら、俺だって軽蔑されるに値するんじゃないだろうか。恋人と言えど達海は男だ。同じような立場になってたら、きっと達海を俺は選ぶ。そんなの、夏木やジーノのことなんて自分はちょっとも言えないじゃないか。



「…同じ手を汚した共犯者なんですよ、きっと。まだ暗がりにかざした手、使って探してるんです。どうしたら皆が幸せで終われるか。」

「有里ちゃん…、」

「だって、全部を捨てるのってとても苦しくて…痛いことだと思うから…。そうでしょう?達海さん。」

「んぁ?……あぁ。」

「だから、私は…二人が本当に戻るまで待とうと思います。」



しばらくの沈黙を破って口を開いた有里ちゃんは、村越に支えられている夏木の奥さんの手を握って真っ直ぐにテーブルに置かれた手紙を見つめて言った。意志の強さが感じられるそれに、納得したように頷いては涙を流す奥さん。奥さんが言えない強い部分を代弁したのだろう。俺はまだうじうじした考えのままにミーティングルームを出てしまった。

GMとして、男として、同じ罪人として、何が出来る?

有里ちゃんの言葉通り、待てば良いのか?

それとも……、







(後藤、俺はあいつらをスゲーと思う。言えないままに隠れて過ごしてる俺らより、ずっと、)


















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様々な波紋が広がりますね。
タッツミーも後藤と付き合ってる自分を考えてるんです。後藤の気持ちもちゃんと分かるから…あえて深く語らないというか。

まだ正直悩んでいます。二人は幸せにしてあげたいけど…