ヴェローナの町を堪能したあの日から、俺達は長い間を過ごした。時間にしたら1ヶ月位の短い間だけど、二人きりでのんびり過ごす毎日はとても長く感じられた。長いようで短いとは、この事を言うのかも知れない。

ジーノは別にしなくていいからと止めて来たが、俺はジーノの知り合いが経営する近くのカフェの清掃員としてアルバイトをする事に決めた。朝早くに出ていって開店前のカフェを清掃する。大掃除の時は大雑把だった俺だが、精一杯頑張って働いた。お昼前に帰って来ればジーノがお昼ご飯を作ってくれていて、いつも今日は自分が当番だったのにと申し訳なくなるが、ジーノはやる事が無いからと拗ねた様に言った後で必ず笑ってくれた。

それから俺はイタリア語の勉強に午後を使う。ジーノはスパルタだ。先生、舌の使い方教えて下さい…なんてキスしようとしたら、簡単な挨拶も上手く喋れない奴に褒美なんてやらないとこっぴどく叱られた。怒ってるジーノは可愛いと思う。ヘラヘラしたら、またこっぴどく叱られた。ドンマイ、ナッツ。

おやつの時間を過ぎた頃になれば、夕飯の食材買い物がてら散歩に出かける。二人で堂々と手を繋いで歩いていれば、やはり刺さる視線は少しあるものの、この町の人は殆どジーノを知っているので、暖かい挨拶をしてくれる。暖かい町に、ジーノに、美味しいご飯に、ふかふかなベッドに、ジーノに。後は毎日欠かさないキスと、何日か毎に訪れる甘くて激しいセックス。そんな幸せな毎日。


“…駆け落ちなんて、ちゃんと考えて言ってないくせに。ナッツ、僕は…もう振り回されるのなんて御免なんだ。だから、”

“俺だって、ちゃんと迷った。迷って迷って、ジーノと居たいって思ったんだ!”

“じゃあ、あの嫁も可愛い娘も捨てれるって言うのかい!?馬鹿も休み休み言いなよ。僕が、いつだって君に振り回されてばかりじゃないか!”

“もう、離さない。”

“五月蝿い!あの女と結婚した時みたいに、何も言わずに僕を、”

“ジーノ、”

“…捨てて、行くくせに…ッ。”

“後悔したから、拾いに来たんだ。あの時を。ジーノを。”


ある日情事後のベッドの中で、不意に逃避行の前日の事を思い出した。隣で疲れて眠るジーノの髪を梳くように撫でてやりながら、今感じている幸せを噛み締めた。迷って迷って、迷った挙げ句、ジーノを俺は俺の罪に引き摺り込んだ。汚い誘いで、汚い言葉で。ジーノは俺の罪の道連れにされたのだ。俺が、この罪をハッピーエンドと思い込む為の。

ジーノは何も知らない、携帯を新しくしてしまったから。ETUのメンバーから俺のパソコンに沢山のメールが来ていること。妻からのメールが来ていること。俺がそれを見る度に心を折れそうな迄に揺らがせていること。でもジーノ、俺はお前を選んで正解だと思いたい。だってこんなにも、





(眠る君が、)
(愛し過ぎるのだから)









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ジーノが、ジーノじゃない!
ナッツが、ナッツじゃない!
今更ながら気付きました←
もう後戻りできないwww