「ナッツは本当に、美しく無い。」


帰り際のロッカールーム。この前買ったばかりの糊の効いたシャツに袖を通しながら、相変わらず馬鹿やアホをぶら下げている彼に言ってやった。

今日、タッツミーが珍しく紅白試合を組んだ。僕は馬鹿日本代表の彼と同じ。敵チームであるバッキーのミスキックでこぼれたボールを僕が華麗に拾って、更にいつ蹴っても華麗なパスを仕方なく、仕方なくアホ日本代表の彼に出してあげたんだけど。彼は僕の期待を見事に裏切り、無様に転けて、シュートを外した。このピカピカなゴールドのスパイクで蹴り上げてやったら、ちょっとはマシになるだろうか。


「あ、あの時のシュートは、すまん。これでも努力はしているんだ!でもあれからジーノが、パス全然よこさないから俺はスーパーシュートが打てなかったんだ!」


何にも分かってない。彼の無神経さに反吐が出る。こんな奴、大嫌いだ。自分はとっとと何処の馬の骨とも知らぬ平凡をぶら下げた女と結婚して、長い睫毛とふっくらとした柔らかい肌をぶら下げた娘が産まれてすくすく成長し。幸せ家族、ぶら下げて。

僕には、何も無い。僕は何も無い。


「……ナッツはいつだって、僕に何もくれないじゃないか。」

「…は?」


柄にもなく涙ぐんでしまった。ロッカーの扉が盾になっているからナッツには見えていないのが幸いだと思う。声が震えていませんように。


「…何でも無いよ。」


間抜け面なナッツに飛び切りの笑顔を嫌味ったらしく向けてやりながらロッカーを閉じた。僕の思いも、閉じてしまえたら良い。


「もうパス一生出してあげないよ、ナッツにはね。」

「…何っ!?、ちょっと待て!ジーノ!パスくれぇえええ!」

「Ciao.」





(パスが欲しいなら、僕を呼んで)
(僕の名前を、声枯れるまで)


(あの時、彼は泣いてる気がした)
(抱き締めてしまったら)
(幸せは、壊れてしまうだろうか)






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ぐだぐだw