「ねえナッツ、ずっと前に君が行きたいって言ってたのって何処だったっけ?」

「イタリアで?」

「そう。見かけに反してロマンチックだった所だったよね、トレビの泉とかだっけ。」

「違う違う。俺が行きたいのはヴェローナ。」


あぁ、と思い出せたことの合図なのか小さく声を漏らすジーノ。俺達は無事にミラノにたどり着き、其処から鉄道に30分程揺られて、やっとジーノの祖母の家にやって来たところだった。彼の祖母の家は祖母が他界した二年前よりずっと別荘代わりにと残してある、古い街並みの中にぽつんと建っている可愛らしい一戸建てであった。やはり人の出入りが少ないからか、埃があちこちに溜まっていて、まずは部屋の大掃除からしないといけないなと二人で笑いあった。

日本から持って来た荷物を部屋に置いて、俺達は過ごせる環境を作り始めた。色々と手続きを済ませて電気や水やガス等を通してもらい、近くのスーパーに食料や掃除道具を買った。俺はその間、ジーノに申し訳ないなと思い続けていた。何故なら、あの時嫁さんに渡したのが俺の全ての貯金だったからだ。勿論、ビザ取得等の何やかんやで一部は使ったがそれ位どって事無い額。つまり、俺は逃避行の手立てを作っただけで、後はジーノのヒモになるしか無い訳である。でもジーノはそんな事を気にしていないらしく、楽しそうに買い物をし、イタリア初心者の俺の手をグイグイ引っ張っては、まるで子供の様にはしゃいでいる感じだった。

買い物が終わって大量の荷物を抱えて帰って来れば、もう日は傾いて、すっかりマジックタイムだった。到着がお昼前だったから致し方ないことである。俺達は長旅と買い物の疲れを癒そうと革張りのソファーを雑巾で拭いて綺麗にし、取り敢えず其処に上着を脱いで座り込んだ。そんな中で、冒頭の会話が行われた訳で。長くなってすまないと思う。


「ジュリエット像の片胸は黄金らしいぞ。」

「なんて、不純物なロマンチック。」

「だって触れるんだから触りたいだろ。」

「ジュリエットと浮気したら、コンクリートで固めてやるからね。」


なんて可愛いんだろう。ちょっと唇を尖らせてそんな事を言いながら、近くに置いた買って来た袋に手を伸ばしてワインとチーズ、パンやサラダ等を取り出していく彼を、俺は勢いよくギュッと抱き締めた。「馬鹿ナッツ」なんて顔をほんのり赤くしながら振り払おうとするから、ソファーに押し倒して。


「ジーノ、愛してるよ。」

「……知ってる。」


深いキスを交わした。

日がとっぷり暮れてしまい暗くなったので、ソファーの脇にあるスタンドライトを点けた。淡い光で照らされる埃まみれのリビングと革張りの茶色いソファー。俺達はくっついてしまうんじゃないかという位に交わらせていた唇を離しては、取り出したワインやらを開けて、早めの夕食を取る事にした。


「ナッツ。……ヴェローナ、いつか行こう。」

「おぅ。金のおっぱい、触ろうな。」

「ムード台無し。」

「愛してるよ、ジーノ。」

「イラつくね。」


これまた埃まみれのテレビを点けたら、俺はちんぷんかんぷんなバラエティー番組らしきものが放送されていた。俺達はそれをBGMに、飛行機の中で話した以上にくだらないことを話し、笑い合いながら夕食を食べた。錆びまくっているバスルームに二人で入ってシャワーを浴びて、寒さを紛らわす様にそのままソファーの上で身体を重ねた。寒い筈なのに、お互い身体も心も熱くなって、感じた事の無い幸せな絶頂感の中で俺達はやっと眠りについた。買って来ていた大きめのブランケットを布団代わりにして。





(僕も愛してるよ)
(…知ってる)






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幸せそう…(´Д`)
たまには幸せにと思って書きました。
ヒモなナッツが書きたかった←

ジーノは元々プライドが高い人だから、ヒモナッツで嬉しいんじゃないかな←