生恋し心恋し | ナノ

「まァ、素敵な着物」
「そうですねィ。似合うんじゃないですか」

あれから一週間。
今、私は驚きを隠しきれません。

「でもあっちの薄紅色の着物も可愛い…」

目を前で買い物を楽しんでいるのは、豪華な着物と小物を纏う、見た事のある可愛らしい女の子。
間違いない。
あの、もっさりブリーフ様…じゃなかった将軍様の妹君の、そよ姫様だ。
そうか、このお店が高級だということは、値段を見たり来るお客さんの身なりなどから伝わってきたけれど、まさか姫様もいらっしゃるなんて。
呆然としていると、この一週間で仲良くなった同僚の花田さん(30歳そこそこ美人な女性独身)に、姫様はここ御用達なのよ、と教えてもらった。
まじか。それは凄い…
というか。
私が1番驚いているのは、そよ姫様じゃなくて、その隣の方だったりするんですけど。

「ま、どっちもいいと思いますがねェ」

さらさらの栗色の髪に、整った顔。
見覚えのある黒い隊服。
…沖田さんだ、と分かった。
護衛なのだろう、ということは隊服を来ている時点で分かるが、何だろう、可愛らしい姫様と綺麗な顔立ちの沖田さんが凄くお似合いで…
思わず見とれてしまった。
するとそよ姫様が、こちらを向いて何かを見つけたように走ってくる。
うん、可愛い。
どこか他人事のように思っていたが、そよ姫様がぴたりと立ち止まったのは私の目の前だった。

「こんにちは!」

にこり、と笑う彼女に、私が男だったら心を奪われていただろう。
私と年齢が近い方がいるな、と感じて、来てしまいました、と言うそよ姫。
いやいや、可愛すぎか。
確かに年齢は近いけど、顔面偏差値と身分が違いすぎます。
あなたが月なら私はすっぽん。滋養強壮にはいいけど見た目がグロテスクなアレだよアレ。

「名前は何というのですか?」
「…あ、朝木、日向子です」
「私はそよと申します。日向子ちゃん、よかったらお友だちになってください!」

そう言ってもう一度にっ、と笑ったそよ姫様に、私はえ、と情けない声を上げてしまった。
そよ姫様の後ろで沖田さんがこちらに向かってきているのが分かる。
…まさかこんな展開になるとは。
勿論断ることなんて出来ずに、私ははい、と声を出した。
嬉しい!と微笑むそよ姫様。

「今日は、下町にお出掛けをして、色々回りたいなと思っていたの!よかったら一緒に回って下さらない?」

そう言われ、仕事が…と言いかけると、花田さんにいってらっしゃいと背中を押された。

「日向子、今日くらいはいいから、そよ姫様たちと遊んで来なよ!」
「え!でも…」
「気にしない気にしない!」

快活に笑う花田さんに、まずは着替えといで、と店の奥へと押し込まれる。
まじか…とあまりに突然の出来事に驚きを隠せずにいるが、言われた通りに着替えた。
いつもは殆ど店の着物で過ごせるから、ちゃんと普通の着物を着たのは初めてかもしれない。
ちょっとわくわく…
着替えてから、そろり、と戻れば、そよ姫様と沖田さんが待っていて、行きましょう!と言われる。
店の外に出たら、お付の人っぽい人が大量の袋を持っていて、結局どっちも買ったんだなと思った。

「楽しんでおいで!」

花田さんの声が聞こえて、はい!と返事を返した。
よくよく考えればお出掛けなんて、こっちに来てからまだ殆どしてないなぁ。
少し心を弾ませて、私はそよ姫様の元へと向かった。



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