生恋し心恋し | ナノ

私はまず仕事を探そうと、ハローワークへと出掛けた。
あわよくば、そこで住込みで出来る仕事が見つかったらいいなぁ、と期待を込めて行ったのだが…
勿論、そんな都合の良い出来事が起こるはずもなく。

「幾ら漫画の世界と言えど、やっぱ現実は厳しいんだなぁ」

仕方なく不動産屋へと向かう途中、思わずそんな台詞が出た。
生きるのって、どこでも大変。
気楽でただ楽しいだけに見えた彼らの世界は、宇宙人がいたり、空に船が飛んでいたりする以外は、私がいた今までの世界となんら変わりはないようだ。
まぁ、どうせ私はこのまま行けば、これ以上彼らに関わることは無い。
沖田さんとだって、住所を見つけて連絡してしまえばそれで終わってしまうだろう。
人間の関係性なんて実に希薄なのだから。
そんなことを考えながら歩き続けれていたら、不動産というお店の看板が見えてきた。
とりあえず私は住む場所と仕事が最優先だ、と自分に言い聞かせ、不動産屋へと足を急がせた。





不動産屋に行けば沢山の物件を教えてもらったが、当たり前だが全て身分証明が必要な所ばかりで、私は困り果ててしまった。
身分証明書か。なんでそんな大事なことを忘れていたのだろう。
紹介してくれているお店の方に、身分証明書をなくしてしまったのですが、と伝えると、それは困りますね…とその人も黙ってしまう。
不動産屋に行けばなんとかなるか、と高を括っていた私が馬鹿だった。
思わず、どうしよう、と不安を漏らす私に、その人は、あ、と何かを思い出したように机の下をガサゴソを漁り始めた。
そして机の上に1枚の資料を置く。

「ここ、少し郊外にあるのですが…」

見せられた資料には、小さめな一軒家の写真が載せられていた。
驚くことに値段は今まで教えてもらったアパートのどれよりも安く貸し出している。
お店の人によると、今一等地に呉服屋を開いている老夫婦が昔住んでいた家を貸し出していて、場所が都市部の郊外であることと、年齢故に管理が行き届かずに掃除などの手入れをあまりしていない事が安さの要因らしい。
さらにその老夫婦は人が好いらしく、身分証明書をなくしたと事情を話せば、受け入れてくれるかもしれないとのことだ。
私は二つ返事で快諾した。

「じゃあ、早速連絡してみますね」
「お願いします!」

この世界に来て初めて希望が見えた。

老夫婦は実際に会って決めたいと好意的に対応してくれ、かくして私はその一軒家に向かうこととなったのだ。



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