生恋し心恋し | ナノ

チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえ、私はゆっくりと瞼を開いた。
寝惚けた頭に朝の光は眩しく、まだ微睡む脳内は障子から透ける光を認識するのみで、まだ完全に覚醒していない。
すん、とどこか張り詰めたような清廉な朝の空気を肺いっぱいに吸い込み、私はまだ怠い身体を伸ばす。
はぁ、と息を全て吐き出して、そこで私の脳はやっと今居る場所、状況を認識した。

ここは、どこだ。

見覚えのない殺風景な部屋。
おじいちゃんの家に来たような、そんな錯覚すら覚える昔ながらの造り。
鼻を掠める木の匂いが、余計にこの場所を今までの私に身近ではないものだと認識させている気がした。

不意に何かがいる気配がして、私は、ばっと後ろを振り返った。
綺麗な顔の男の子が、じぃっとこちらを見つめている。
細くて柔らかそうな栗色の髪に、水晶の様な紅い瞳。
作り物のような、あまりにも整った外見。
私は、この男の子を見たことがあった。
胸の奥がザワザワしている。
ああ、これか動揺か、と、自分のことなのに、どこか客観的にそう思う。
けれど、それは、私が見たことがある彼がここにいるのは、有り得ないのだ。
だって私が見た彼は、紙の上の…漫画の登場人物だったのだから。

おかしい、これはどういうことなのだ、と私は思わず額に手を当てた。
もしかしたらコスプレイヤーの人が、なんて考えも一瞬浮かんできたが、それは有り得ないのだと自分で思った。
その存在も服の質感もあまりにリアルで、何より彼があまりにも…私が知っているキャラクターに似過ぎていた。

「なに、じろじろ見てるんでィ」
「…あ、ごめん、なさい」

彼の声を聞いた瞬間、私はやっぱり、と確信を持った。
独特な声に、特徴的な言い回し。
こんな姿で、こんな喋り方をする人なんて、私は1人しか知らない、けど、彼は私と相見えることは有り得ない…はずなのに。

だけど、多分…いや絶対、彼はあの、SF人情なんちゃって時代劇コメディ…銀魂の、…沖田総悟であると、私の直感が告げていた。



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