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錆付く花殻を撃ち抜いておくれ


恋とは怖いもので、突然意味もなく降ってくる癖に、好きじゃなくなるのは難しくって、甘酸っぱいのに苦い、優しいのに狡い、そんな背反した思いを共有する感情で胸の中は埋め尽くされていた。
特別な理由なんてないく、だからその過程もない。
私が沖田さんに抱くこの恋心は、所詮一目惚れ、というものから始まっていた。

「好きです」
「…あ、そう」
「大大大大大好きです」
「うんキモイ」

全く連れないなぁ、と私は呆れ顔の沖田さんに向けて笑いかける。
沖田さんは少しダルそうな表情で薄い唇から溜息を洩らす、その様がとても美しく思えて私は感嘆した。
嗚呼、私は、この人の全てに魅了されている。

「沖田さんは綺麗ですね」

呟いた言葉は想像よりずっとはっきりした声で空気中に溶けていった。
例え沖田さんの耳に届いても、もうきっと彼は応えてくれないだろうと思いながら、彼に対する恋心を貼り付けたような笑顔でニコリと笑いかける。

「お前、毎度毎度よく飽きねぇな」

だけど想定外に返事は返ってきて、いつもは合わせられない瞳も今ばかりは何故だかはっきりと見つめあっているのが分かって、堪らなく嬉しくて、でも恥ずかしくて私はつい目を伏せた。
睫毛がパサリと揺れる、私の気持ちも、揺れる。

「せっかく久し振りに話し掛けてんのに、なんで目ェ逸らすんでィ」
「だって、いつもは目を合わせてくれないじゃないですか」
「合わせたらウゼェじゃん、お前」
「…なら、なんで今…」

動揺する私が珍しいのだろうか、彼と私の会話はいつもじゃ考えられぬほど続いていて、彼の紅い瞳に私が映っていて、それがまるで今は私と彼のお互いだけの世界のような錯覚すら覚え、どうしようもなく恋しい気持ちになった。
彼の口角は少しも上がらぬまま、表情も無表情のまま、だけど紡がれる言葉は私へのもの。
サラリとした栗色の髪が色素の薄い白い肌に張り付く、それが色っぽくて、私は思わず息を飲んだ。
彼は血色のいい唇を開く。

「気紛れ」

きっとこれは一目惚れしてしまった私のせいである。
何の気なしに呟かれたであろう言葉は、私の心を深く抉り、私はまた彼に魅了されてしまうのだ。



title by 花畑心中