感想 


34.泡沫の虹
 2010/08/22 - 辛口感想
ジャンル:時代小説
長さ:中編(完結)


いいかげんなあらすじ:
大店の跡取り息子・弥平次は、女遊びが過ぎて勘当され、取引先の井筒屋に手代として雇われる。
弥平次は井筒屋の跡取り娘・糸と相思相愛になるが、井筒屋の主人は番頭である嘉平衛を糸の婿にしようと考えていた。


人物の掘り下げ不足で、感情移入できませんでした。
また、恋愛の過程もあまり描かれていないため、結末にも説得力がありませんでした。
しかし、人物の外面の描写や台詞が上手なため、人物像を把握しやすかったです。





高校時代、日本史と古典が苦手すぎて拒否反応を示していた人間でも、すんなりと読めた時代小説です。
やわらかな文体で書かれた恋愛ものだからか、読み始めの抵抗が少なかったのです。
また、時代背景をあまり知らなくても、十分にストーリーを追える内容でした。


長さのわりにあっさりと読めたのですが、物語の濃度が薄く、食い足りなさが残りました。

主な原因としては、視点が分散している点が考えられます。登場人物ひとりひとりにさかれる文字数が少ないため、各登場人物の掘り下げが不足しているのです。
また、この作品での人物の掘り下げ不足は、心理描写の少なさに起因していると考えられます。

視点となった人物の気持ちや思考が伝わってこないため、だれにも感情移入できませんでした。
心理描写の不足は、主役であるはずの弥平次で特に顕著でした。
また、弥平次と糸が惹かれ合っていく過程も省かれています。
そのため、悲劇的なラストシーンを読んでも、主役に思い入れがないため、全然悲しくなりませんでした。

そもそも、弥平次と糸が心中に至ったことが腑に落ちません。
弥平次と糸が、なぜ相手を好きになったのか分からないからです。
また、弥平次と糸との精神的なつながりも見えてきません。
そのため、「心中」という重い結末に説得力がないのです。


主役以外の人物については、清平衛について引っかかる点が多かったです。
なぜ清平衛は弥平次に糸を迎えに行かせたのでしょうか。
また、清平衛にとって弥平次がどのような存在なのかもわかりませんでした。
あと、清平衛に限ったことではないのですが、糸と弥平次が駆け落ちしたと、だれかがもっと早く気付いてもいいはずです。


文章は粗い部分が残っているものの、平易で読みやすかったです。
しかし、余計な代名詞(特に「その」「そんな」)の多さが気になりました。
代名詞がなくても、十分に意味の通る箇所が多かったのです。
また、何を指しているのか分かりにくい代名詞が、いくつかありました。


登場人物の外側からの描写は、とても上手な印象です。
弥平次や糸の容貌は、文章を読んだ瞬間、ぱっと頭に浮かびました。
また、登場人物のちょっとした仕草からも、その人物がどのような性格なのかよくわかりました。
台詞にも人物の個性が表れています。

登場人物はやや多めですが、しっかりと書き分けられているので、混乱することはありませんでした。


言葉の選び方も、気がきいています。
この作品は平易でありながらも、雰囲気のある文章で書かれているため、
軽い文体ではないのに、取っ付きやすかったです。

歴史好きな方にも、歴史にうとい方にも、オススメできそうな作品です。


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