感想 


30.路肩の蝉
 2010/08/01 - 辛口感想
ジャンル:近代西洋
長さ:短編


いいかげんなあらすじ:
たくさんの絵描きであふれる芸術の都。
売れない絵描きで浮浪者のクレドは、高名な絵描き・ローブに気に入られ、助手となる。
ローブのもとで絵を学んでいたクレドは、ある日、ローブの絵に奇妙な穴を見つけ……。


空気はしっかりと描かれていますが、状況が少しわかりにくかったです。
また、後半がやや急かもしれません。
ですが、息をのむような展開に圧倒されました。
セミが象徴としてうまく使われていたのが印象的です。





小さいころ、結構美術館に連れていってもらったのですが、絵画に対する感性は発達しませんでした。
そんな人間でも、すんなりと読めた作品です。
ソリッドで平易な文章は読みやすく、また、主人公の変化がわかりやすい構成だったからでしょう。


文章については、比喩が効果的に使われていて、夏の空気がとてもよく出ていました。
雰囲気だけでも結構読めてしまいます。
ですが、よく読んでみると、状況がわかりづらいシーンがありました。

冒頭のカフェのシーンや、クレドが母親と口論になるシーンは、
不足している言葉を、読みながら脳内で補完していく必要がありました。
目的語が抜けがちなことが、原因として考えられます。

また、クレドがローブの絵に「穴」を見つけたシーンは、とてもイメージしずらかったです。
「穴」が現実には存在しないことは、なんとなくわかります。
ですが、小さな「穴」にクレドが頭を突っ込めることについて、脳内でうまく映像化できませんでした。
説明に文字数がもっとさかれていても、よかったのかもしれません。

他には、ローブの屋敷やアトリエの様子、出てくる絵画のサイズや画材、クレドの元々の具体的な画風なども知りたかったです。

あと、所々存在する長すぎる文章が気になりました。


雰囲気がよく出ていたため、作品の世界にしっかりと引き込まれました。
ただ、少々展開が速すぎたかもしれません。

サロンに出展する前に、クレドは「穴」の向こうの世界を見た、と本編にあります。
クレドが「穴」を登りきってしまったことが、物語最大のターニングポイントだったと、個人的に考察しています。
そのため、このシーンがほとんど書かれていなかったせいで、急ぎ足な展開になってしまった可能性が考えられます。

また、「穴」の向こうにどのような光景が広がっていたのか、少し気になりました。


なんだかんだ書きましたが、息をのむような後半の展開には圧倒されました。
サロンに出展したあと、クレドがおちていく様に、読み終わったあともしばらく心拍数が上がっていました。

また、セミが象徴としてうまく使われていたのも印象的でした。
クレドの物語が、セミの一生と重なっているのが、とてもおもしろかったです。

最初、なんでたびたび「穴」が出てくるのかわかりませんでした。
ですが、後にセミの幼虫が地上に出るために通る穴だと気付いて、すごく興奮しました。

物語の構成にしかけがあったり、深読みできる小説が好きななので、かなり楽しめた作品です。


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