感想 ▽
18.仮面舞踏会
2010/03/23 - 辛口感想
ジャンル:中世風恋愛
長さ:中編(完結)
いいかげんなあらすじ:
貴族も平民も入り混じった仮面舞踏会。ルールは「素性を明かしてはいけない」、ただそれだけ。
貴族の娘・サラは、母や姉から仮面舞踏会の話を聞かされていた。
サラは期待を胸に、最初で最後の仮面舞踏会に参加する。
前半はかなりおもしろいのですが、視点移動の多い後半は散漫な印象でした。
すべてのエピソードがハッピーエンドを迎えるせいで、メインのエピソードが埋もれ気味でした。
設定や小道具がうまく使われている作品です。
派手すぎず、甘すぎず、しかし少女小説としてのツボは押さえられていて、安心して読める作品です。
目次の章タイトルで展開がわかってしまうのですが、それでも楽しんで読めました。
前半は、登場人物それぞれの仮面舞踏会に関するエピソードが魅力的で、一気に物語の世界に入り込めました。
一方で、後半でおもしろさが失速してしまったのが残念です。
作品のボリュームのわりに視点移動が多く、散漫な印象になってしまったことが、一番の原因でしょうか。
視点が次々に入れ替わるため、一人一人のエピソードに集中できないのです。
また、個人的には、青年の視点はいらなかったです。
青年の素性は結局明かされますし、文章の端々から素性を察することも可能でしょう。
青年の気持ちがわかってしまうのも、少し残念でした。
「相手は人物のことをどう思っているのか?」
というドキドキ感が損なわれてしまうためです。
文章的にも、視点が不安定なのが気になりました。
一人称と三人称が入り乱れていたり、突然視点となるキャラが変わっていたりして、少々読みにくかったです。
また、仮面舞踏会にまつわるエピソードが、すべてハッピーエンドを迎えていることに引っかかりました。
基本的にはハッピーエンドのほうが好きなのですが、ハッピーエンドがあまりにも多発するため、
メインであるサラのエピソードが埋もれてしまっているような印象を受けました。
離婚や婚約破棄によるデメリットがほとんどないせいで、
ハッピーエンドのありがたみが損なわれてしまった可能性も考えられます。
マリーやニーナの場合、仮面舞踏会での相手にわりとあっさりと再会できてしまって、
再会できたことへの感慨が薄れてしまった面もありそうです。
なんだかんだ書きましたが、かなり楽しめた作品です。
冒頭を読んで、粗削りすぎる文章に不安を抱きましたが、あっという間に仮面舞踏会にまつわる物語に惹きつけられ、
気が付いたら半分以上読み終わっていました。
視点は不安定で、情景描写も不足気味ですが、登場人物の心情についてはしっかり描かれています。
そのため、登場人物に感情移入しやすかったです。
また、仮面舞踏会の「素性を明かしてはいけない」というルールが活きているから、
おもしろい作品に仕上がっているのでしょう。
仮面舞踏会での相手がどんな人間なのか気になって、つい読み進めてしまいました。
一期一会のドキドキ感も味わえます。
靴やペンダントといった小物も、象徴としても、伏線としても、うまく活用されています。
きれいにまとまっていて、変な癖や毒気のないストーリーであるため、
ハッピーエンド至上主義の方に安心してオススメできそうな作品です。