次の日の昼休み、いつも通りガールズトークに花を咲かせる中庭。
友達に鳳くんと話したよ!と報告すると、カッコ良かったでしょ?と自分の事のように嬉しそうに笑った。

「確かに爽やかだね」
「そーなのよ。長身で爽やか!まさに男子の鑑よねぇ」

うっとりと、どこかに思考を飛ばす友達に、別の子が呆れたように小さく息を吐く。めざとく、それを聞きつけた友達がじとっとその子をにらんだ。

「あんたは彼氏がいるからいいもんねー?洋司くんだっけ?」
「あ、あたしのことはいいの!」
「真っ赤になっちゃってー!どこまでいったんだっけ?」

ABC〜と指折り数えだす友達を、真っ赤になって必死に止める。いいなぁ、かわいいなぁ。私は2人の様子を、お弁当をつつきながら大人しく見守る。今日はから揚げが大きくておいしい。冷凍だけど。

「虹子、アンタはどうなの?我関せず、みたいな顔してさぁ」
「え?私?」
「聞くまでもないじゃん」
「あー…そっか」
「え?え?」

跡部様でしょ、と声をそろえて言われる。反射的に、私は首を横に振った。違う、跡部様はそういうんじゃない。それは照れてると思われたらしく、何今更隠そうとしてんのよ、と両側から友達に突かれた。確かに今私の心を占める大部分は跡部様だけど、これって恋なのだろうか。恋の定義ってなんだろう。私はわけがわからなくなって、友達2人に率直に聞くと、顔を見合わせ、アンタ小学生じゃないんだからと言った。

「跡部様の写真もってるでしょ?」
「うん、肌身離さず」
「授業中なに考えてる?」
「跡部様のこと、と授業の、ムグッ」
「そこはいいわ。じゃあ跡部様に名前呼ばれたらどうする?」
「えっ…そんなの、そんなの…しんじゃう」

想像するだけで顔が熱くなる。それを見て友達、ほらね、と確認するようにウンウンと頷いた。えー?私、跡部様のこと好きだったのかなぁ?自分でも衝撃の新事実だが、どうにもピンと来ずに首をかしげる。そうすると…うう〜ん…。ブレザーのポケットから生徒手帳を取りだして、跡部様の写真を拝む。私、貴方の事好きなんですか?
友達のゲッという声がWで聞こえた。

「うわ〜なっつかC〜!それって1年の跡部?」
「はい、そうで…す?」

頭上から聞こえた声に、思わず返事をしてから、聞き慣れない男性の声だということに気づいて見上げる。たんぽぽみたいなふわふわの毛が太陽に透けてキラキラ輝いて見える。覗き込む視線にハッとして、生徒手帳を閉じると、不満げな声をあげて手帳をひったくった。

「わ、わ!やめてください!」
「E〜じゃん別に〜!うっわ、すごいピンボケ」
「返して!」

私が跡部様の写真を大事に持ってるのをみると、大抵の男子は、うわ、ミーハー女キモみたいなかわいそうな目で私を見てくる。それが一番嫌なのだ。そんな、跡部様をイケメン男子みたいな括りにしないでほしい。ちがう、跡部様は違う。
たんぽぽの彼の肩に右手をかけて、生徒手帳へ反対の手を伸ばす。ずる、とローファーが滑り、身体はたんぽぽさんへとダイブする。転びながらも、私の左手はしっかりと生徒手帳を奪い取った。

「痛ってー!」
「虹子!ちょっと大丈夫なの!」
「うん!跡部様は無事!」
「そうじゃない!」

たんぽぽさんのマウントポジションをとって、私は生徒手帳を上に掲げた。そして、そのままの体勢でたんぽぽさんをキッと睨みつける。どうだ、まいったか!頭を押さえていたたんぽぽさんは、その行為をきょとんと見ると、それから歯を見せて笑った。

「おめー跡部の事、好き?」
「当たり前!です!」
「そっか。俺もだCー」

え?と思わず聞き返すと、輝かんばかりの笑顔でもう一度、俺も好きと言った。

「…へ?」
「跡部ってめちゃめちゃかっちょA−よな!」
「う、うんうん!そうです!」
「俺、跡部のテニスまじまじ大好きだC−!」
「そう!私も!」

思わぬ賛同者に私は彼の手を固く握る。それから、跡部様のテニスは私の目標なの!と息巻くと、彼は目を瞬いてから、それってすっげー!と破顔した。
何、何この人!すごい!

「跡部のテニス見てっと負けらんねー!ってぐわーって熱くなるんだC!」
「ぎゃー!」

わかってくれる。この人私の考えわかってくれるんだ!
思わず熱くなって、跡部様論をぶつけ合っていると、友達にブレザーの襟をぐいと引っ張られて、私は芝生に転がった。芝に尻もちをついた状態のままでも、私の想いは止まらない。たんぽぽさんも起き上がりながら、全てにうんうんと頷いて、それからすげー!とまた笑った。

「たんぽぽさん!ありがとうございます!」
「俺も!サンキュー!」

たんぽぽさんは尻もちの体制のままの私に、葉っぱがひっついた手を差し出す。それに掴まって立ち上がると、もう一度固く手を握り合った。じゃあな!とハイテンションにかけていく背中に、私は友達に小突かれるまでめいいっぱい手を振った。

「すごーい!見た!?今の!」
「アンタら、8割何言ってるかわかんなかったわよ…」
「嘘ー!」
「っていうか今のテニス部の芥川先輩!」
「へー!!芥川先輩かー!」

アホ!と2人から同時に叩かれ、ひやひやしただの見られてなくてよかっただの散々文句を言われたが、依然として私のテンションは高いままだった。跡部様ファンの方々と話しをしたことは何度かあったが、財閥がどうとか、香りがどうとか、ちんぷんかんぷんなことばかりだった。それが、どうだろう!たんぽぽ…いや、芥川先輩はパーフェクトだ!彼がチームメイトだなんて、跡部様はきっとさぞお喜びに違いない!
なんだか今日の部活も上手くいきそうな気がして、上機嫌に鼻歌を歌った。



「なんや慈郎機嫌ええなぁ」
「鼻歌とか…激ダサだぜ」
「というより、ちゃんと部活に来てること自体、珍しくないですか?」

一方、テニス部でも明日は暴風雨なんじゃないかという懸念が、芥川によってもたらされていた。


130202
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