長いこと生きてればなんもかんもうまくいかない日が一日くらいあるだろう。まだ14年しか生きていない私だが、私にとって今日がその全部ダメな日だ。

朝はベッドから落ちて腕を強打し、ついでに言うと階段も踏み外した。その余韻で心臓バクバクさせながら顔を洗いに洗面所に行くと、風呂上がりの父ちゃんが素っ裸で立っており、思わず叫んだらお兄ちゃんにヘッドロックされた。ようやく落ち着いて朝ご飯と思ったら牛乳を盛大にこぼし制服がやられ、しかたなくジャージ登校したら今日は服装チェックの日だったという寸法だ。

授業も授業で全時間にあてられるし、弁当も忘れるしでてんやわんやだった。そんで弁当忘れて購買戦争してたら昼休みが半分以上終わってて本日二回目(服装チェックも)の真田からのお叱りを受けたのだった。怖い怖い。それでも突っかかってく赤也ってすごいわ。

やっとこさ1日が終わって駅で電車を待ってる最中に携帯を机の中に置き忘れたことに気がついた。明日でいっかなんてうっすら思ってから、お母さんからのお買い物メモがあの中だということに気がついた。…しゃーない。願わくばこれが今日最後の不運であれと願いながら改札へつづく階段へと足を向ける。ちょうど階段の上から見覚えのある集団が降りてくるのが見えた。

そういえば先生の頼まれ事のおかげで随分帰りが遅くなっていたんだった。テニス部ももう帰りの時間か。

私が階段につくよりも早く階段を降り終えた彼らに向かって軽く会釈する。挨拶を返してくれる仁王や丸井やジャッカルなんかに目を向けてすれ違う瞬間、ふらっと何かが傾く気配がした。

とっさに伸ばした手は確かに彼の肩を捕まえたけど、支えきれずに膝を折った。柔らかい髪の毛と、嘘みたいに熱い身体をしっかりと身体に感じていた。

私の腕の中にいるのは誰だ?


その答えは雑踏の中でもよく通る真田の声が教えてくれた。

「幸村!!!」

そうだ、幸村精市だ。

その声を合図にみんなが口々に名前を呼ぶ。幸村はそのどれにも反応を示さずに荒い息を吐いた。

今日こそが彼の運命の日だったのだ。


誰が呼んだのか知らない救急車が幸村を連れていって、付き添った真田以外のみんなは後から病院に向かうと言っていた。唯一知ってたはずの私は結局何も出来ずに突っ立ているだけだった。

誰も私を気にかけることがなかったので、落ち着いてきた駅に一人残って電車を待った。

待っていたのだ。心のどこかでこの日が来ることを。知っているのだから何か出来ると、そう思っていたし、治るという未来を知っているからどこか軽く考えていた。早くこの日が来て、助けになれればと思っていた。でも実際どうだろう。幸村の体温がこびりついて消えない。身体が震えて収まらない。

幸村を捕まえた時に擦った膝がヒリヒリと痛み出した。思い出したように血がにじんで、同調するみたいに涙も滲んだ。


発車のベルが鳴っても動けなくて、結局乗ったのは1時間後の電車だった。


120805
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