もーいーくつねーるとーお正月〜♪と指折り数えていたはずが、気がつけば折るべき指は1本となっていた。つまり後1回寝れば正月、ついでに言えば今日は大晦日だ。終業式を終えてからというもの、怠惰を極めまくって、ベッドにかじりついていた。クリスマスなんて洒落た行事があったりもしたが、普通に両親とチキンを食べたというのがハイライトなので割愛。大学生の兄がそれに参加してたのはなんとも言い難かったが。あ、言わなきゃいけないことが一つあった。

隆士さんからクリスマスカードが届きました。

ビックリするよね?私宛ですよ。クマの書いてあるキラキラしたかわいいカードで、差出人を3度見くらいしてしまった。間違いなく隆士さんです。それだけでも感動なのだが、メッセージがエラいことになっていて、隆士さん、奥さん、謙也くんという錚々たるラインナップであった。謙也くんからは「よろしく」とだけ書かれていた。そりゃ知らない人に何書けっちゅー話や。

という、面白可笑しいクリスマスを過ごしましたとさ。ちなみに、どこかにいる越前リョーマくんは心の中で祝いました。


今年最後の晩餐を終えた。満腹感と暖かさでアレがピークだ。そう、眠気。睡魔と戦いつつ、今後のスケジュールを思い浮かべる。といっても、初詣に行くだけだが。まゆちゃん達との待ち合わせは23時。今は20時半。まぁ、昼寝をするには丁度いい頃合いではないだろうか。1時間寝て、準備して。うん、完璧。そういえば、大利根に…、とそこまで考えて私の意識は完全にブラックアウトした。

次に意識があるのは、お尻の妙な重みだった。

「由紀〜リンゴ飴買ってきて〜」

兄だ。バイトから帰宅したらしい兄は私の尻に片足を乗せて、ゆさゆさと揺らした。寝ぼけ眼で睨むと、兄は怖っ、と身を丸めながら足をどける。

「なんだよ起こしてやったのに〜お前初詣いくんじゃなかったんかい」
「はぁ!?行くよ!今何時!」

22時40分。

思わず時計を二度見する。22時40分。私の記憶が確かなら、待ち合わせまであと20分だ。絶句していると、兄は鼻歌を歌いながら、私の上にポトポトとホッカイロを落としていく。

「あったかくしてけよ〜外めっちゃ寒いぞ」
「いや、それより遅刻…」
「はぁ?だから言ったじゃん」

兄の呆れた目を見て我に返る。こんなことしてる場合じゃない!早く準備しなくちゃ!
かろうじて外に出られる服を着ていたので、髪だけ結び直して、それにダウンをはおる。待ち合わせまであと10分。そして、神社まで走って15分。やばい。まゆちゃんにボコられる。

「バイク、後ろ乗せてってやろうか?」
「お、お兄様〜!!!」

突如後輪した神様によってなんとかまゆさんにボコられなく済みそうだ。

、と思うじゃん?

「イデェ!!」
「あ〜ん〜た〜ね〜!!!」
「な、何…あ、まゆちゃん着物かわいい!」
「ドアホ!」

何故か挨拶前に叩かれる私。一体何がピンクの着物で着飾ったかわいい彼女の機嫌を悪くしているんだい…?

「大利根見てみなさいよ!ショックで固まってるわ!」
「え、何故…」
「あんたがジャージだからだ!」

ジャージじゃないよ、スウェットだよぅ…と反論したら更に叩かれた。解せぬ。
理不尽な暴力に耐え忍んでいると、まぁまぁ、と陽気な声がまゆちゃんの荒れ狂ったこころを鎮めてくれた。私はこの天使の名前を存じ上げない。

「ありがとう。えっと…?」
「どうも、栗田の彼氏です」
「はぁ…栗田さんの彼氏さん…」
「そうよ。百瀬駿。3年」
「…えっ!まゆちゃんの!?」

こんにちは。と、温厚そうな彼は快活に挨拶した。そういえば、いつだか見たことあるかもしれない。まゆちゃんまゆちゃん言ってるからすっかり忘れてたが、まゆちゃんのフルネームは栗田真由子だった…。

「えー…初めましてー…」
「栗田と大利根から色々話聞いてるよ。よろしくね、朝霞さん」
「大利根も?」
「野球部なの」
「ああ、それで…」

挨拶もそこそこに、私達は境内へ続く階段を登り始めた。百瀬さんは、見た目通り優しく、笑顔が素敵だ。ま、まぁまゆちゃんの彼氏として認めてやらなくもない。

「うっわ〜結構人いるねぇ」
「はぐれそうね」

まゆちゃんは視線をがっちり私に固定して、力強く言った。おい、どういうことだ。そっと視線を逃がすと、ため息をつくのが聞こえる。子供じゃないんだからはぐれたりしないさ!

「ちょっと時間あるし、りんご飴買ってくるね」
「大利根、付いてって」
「…おう」

一人でいいよと言ったが、まゆちゃんに食い気味にダメと言われたから大人しく頷いた。そんなにはぐれそうに見えるだろうか。結構しっかり者で通ってるはずなんだけど。

そんな疑問を抱えながら、大利根に手を引かれてりんご飴の屋台へと流れる。なんで流れるかっていうと、行く手に人がもりもりいるからそうとしか称せないのだ。


「じゃーんけーんポイ!」
「お、おわー!」

勝った。
から無駄にりんご飴2つだ。大晦日だというのにこんな所でりんご飴を売りさばいている店主の利益を私が削ってしまったかと思うと少し気の毒だが、ありがたくいただくことにしよう。だが、私はりんご飴は好きじゃないので(顎が疲れる)大利根にあげようと振り向いたら、そこには知らんカップルがいて、目をまんまるくして私を見ていた。いや、私も驚いたさ。

大利根の名前を呼べども近くにはいないようで、とりあえず邪魔にならないように人の少ないところへと進んだ。バカなことに急いだから携帯を持ってくるのを忘れたのだ。まゆちゃんに言ったら殴られるぞぉ…
キョロキョロと見渡してみても、大利根は見当たらない。うう〜ん、どうしたもんか…。

「朝霞か?」
「!」

聞き覚えのある声に振り向けば、重装備の参謀さんが石垣に腰掛けていた。

「もこもこだね…」
「寒いのは好きじゃないんだ」

ちょっとかわいい。

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