「さーて書道室行こ〜」
「……」

昼休みになり、その辺に散らばっていた奴らに声をかける。昼休みまでずっと仁王に謝り通していたが、仁王の口は歪んだままだった。顔がにやけていたからですね。すいません。

「ごめんってば…」
「仁王、いい加減にしなよ」
「…プリ」

見かねたまゆちゃんも呆れたように眉を下げる。例の意味不明な呪文を呟く仁王の背中を、日本語喋れよと小突いた。プリプリ怒る感じのプリなのかな?とかボンヤリ考えてると、キッと仁王が強めに睨んできた。

「だって…一回出たのに3秒で切ったんじゃコイツ!」
「そりゃ由紀も悪いけど…」
「だってそんとき忙しかったんだもん…」

金ちゃんを追いかけていた時の事を思い出してげっそりする。あれは疲れた…めちゃめちゃ疲れた…。その疲れが顔にでていたのか、なんでお前が嫌な顔するんじゃ!と拳が飛んできた。

「あっぶねー…」
「バカー!」
「バカって…」

再びため息をついたまゆちゃんが「じゃあさ、」と顎に手を当てて少し楽しそうに口を開いた。嫌な予感がして、まゆちゃんの口元に伸びた手はあっけなく叩き
落とされる。

「毎日電話するっていうのはどう?」
「嫌だよ!!」
「毎日は要らん。うっとおしい」
「おい!!」

私だってしたくないけどうっとおしいってなんだ!じゃあもう気が済んだでしょうとまゆちゃんが言って、仁王もケロッとした顔で頷いた。私だけ置いてけぼりだ。こいつら絶対私で遊んでやがる。
後ろで大利根が俺に電話してもいいよー!と陽気な声をあげた。こいつ、もしや癒しだな…?

「仁王の遊びに真面目に付き合ってたら身もたないぜ〜朝霞」
「そう思うなら、止めてくれよ丸井くん…」

トンっと背中を叩いて、どんまい!と元気よく言った丸井くんに舌打ちが出そうになったのは仕方ない。

ぶーたれた私を皆無視し次々と書道室へ向かい扉を出て行くのを見て、慌ててその背を追う。私がお土産持ってきたのにみんな薄情だぞ!
誰一人待ってなどくれなくて、適度に追いかけるも、追いつけないまま階段に差し掛かった。仁王が薄ら笑いで階段の踊場で壁に寄りかかっている。

「ほーら、早よ来んしゃい」
「む…待っててくれなくてよかったのに…」
「そうやってすぐ可愛くないこと言う〜」
「だって…何か企んでるじゃん」

警戒したまま言うと、仁王はにんまり笑って心外ナリ、と呟く。ああ、嫌な予感その2だ。仁王は身体を起こすと、私の肩に勢いよく腕を回し、耳元に口を寄せた。

「ちょ…」
「罰として幸村の見舞い、付き合いんしゃい」
「はぁ!?」
「約束したのに、あれから朝霞が来ない言うとったぞ」

幸村のお見舞いに行ったときのことを思い出す。最後のやりとり、あれのことか。でも、だって、あれは社交辞令的な!
そう反論すると、仁王は呆れたような顔をした。

「幸村に社交辞令は存在せん。意外と正直者じゃぞ」
「はぁ?でも、私が行く理由なくない?」
「それは…」

そう言ったっきり何か言いづらそうにもごもごと口を動かす。ぼそりと何事か呟いたみたいだが、全くもって聞き取れない。何?と耳を近づけると、ちょっと頬を染めて何でもないとそっぽを向いた。

「真田も一緒じゃ」
「真田も…?ますます分からん」

もう一度問い詰めようと、仁王の方を振り向いたが、仁王は行くナリと言って勝手に歩いて行ってしまった。ぐぅ…とお腹が鳴って、私も急いで後を追った。



「ゲ…」
「人の顔を見てゲ、とは感心しないな」

遅いと罵倒されつつ書道室に入ると、呼んでもいない参謀さんがゆったりと微笑んで座っていた。優しいとは分かってても、苦手なもんは苦手だ。相当顔をしかめていたのか、真田が少し戸惑ったように声をあげる。

「柳に話したら是非来たいと言ってな。知り合いだとは知らなかった」
「心配しなくても、土産をせびったりはしないぞ」

じゃあ何をしにきたんだろう。
なるべく離れて座りたかったが、なんと大利根が柳の前の席を取っておいたというので渋々そこに腰を落ち着けた。間髪入れずにまゆちゃんが横から腹を小突く。地味にいてぇ。

「あんたが遅いから自己紹介大会するはめになったじゃない」
「え?初対面なの?」

まゆちゃんは真田、柳と顔を見合わせてからコクリと頷いた。顔くらいなら知っているけどな、と柳も同意を示す。でも、自己紹介大会は別に私が遅れたせいじゃないでしょう。

「俺、柳とは初対面だけど、真田とは1年で同じクラスだったよなー」

という大利根の発言をキッカケに、各自お弁当つつきつつ、話題は1年の時のクラスの話に流れていった。

「真田と大利根とか想像つかないぜよ」
「えー!そう?結構仲良かったよな、弦ちゃん!」
「その呼び方を止めろと何度言えば気が済む」
「弦ちゃん!なんだそれ!似合わなすぎだろい!」

丸井爆笑。
まゆちゃんは1年の時はジャッカルと同じクラスで、最初英語で話しかけたと言って笑いを誘った。私も1年の出来事をぼんやりと思い出す。クラス、誰がいたかなぁ。

「朝霞は、柳生と同じクラスだったじゃろ」
「そういえばそうだったな」
「え!?」

驚きの声をあげた私に、皆が非難の視線を送る。いや、忘れてたんじゃないですって。今気がついたんですって。記憶の片隅に柳生と話した覚えがある。柳生…こんなところに…!いや、つーかなんで柳まで覚えているんだ。

「朝霞って結構冷たい奴だよなー」
「丸井くん!それは誤解だ!」

その後、なんやかんや理由を説明したけれど、丸井くんには言い訳おつ!と言ってバッサリ切られた。本当に忘れてた訳じゃないんです。違うんです。……ごめん、柳生。

新事実の昼休み。


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