金ちゃんを追ってたはずなのに気がつけば随分と大阪観光していた。たこ焼きも食べたし、なんやかんや通天閣も行って、串カツたべて。朝はくいだおれ太郎でカニ道楽もつつがなく。何気に全部写真をとってるし。ただ、未だに金ちゃんを追いかけている。金ちゃんを追って追って追ってそして、見失った。きょろ、と視線をさまよわせて見つけたのは巨大な門だ。

「が、っこう…?」

学校らしき建物が目の前に現れてトキンと心が弾む。まさか、まさかここが四天宝寺…っ

「道頓堀第一、小学校…」

口に出してからじんわりと脳に入ってくる。呼び起こされる感情はただひとつ。「やっちまった」ってことのみ。そうだよ。幸村達が2年生ってことはだな…
金ちゃんまだ小学生…!
自分の迂闊さを呪ってへたり込む。とてもじゃないけど立ってられん疲労感だ。金ちゃんと1日一緒に(一方的)いられたのは良いとしよう。でも、そんな…あんまりだ。おまけに金ちゃんはいなくなってるし。
恨めしげに見てもこれが四天宝寺中に変わるわけもないので、とりあえず記念写真をとった。校門に刻まれる「道頓堀第一小学校」を背景に自撮りだ。虚しい。でもまぁ金ちゃんと、財前光が過ごした小学校と思えば記念っちゃ記念か。浅い息を繰り返して、この徒労をなんとかポジティブに変えようと頭を回す。
汗だくだし、疲れたし、ホテルに戻ろう。もう金ちゃんを見つけ出す気力も残っていない。

大きな通りに出ればもくろみ通りバス停が立っていた。

「なんば駅行くかな…」

知らない地名ばかりの路線図を辿って行く。駅は一番最後かな、となぞっていた指を移そうとすると、その中でたった一つよく馴染んだ地名を見つけた。

四天宝寺中、前

おもわず叫び出しそうだった。ここまで気分を下げてからの、これ。神様の悪戯としか思えない。つまり、これに乗っていけば四天宝寺中前に行けるわけだ?
気づかずうちに握りしめてた拳を解く。時刻は2分後。もうバスがないなんて不運もない。私の勝ちだ。緩む口元を隠しつつバスを待つ。

なんの変哲もないバスが来て、それに乗り込む。この普通のバスでも私を四天に導くと思うとそれはそれは愛おしい。ここまで来ると半日近いおいかけっこも楽しかったように思えてくるから不思議だ。2つ目のバス停に停車して、四天まではあと1つ。外を見ると見覚えがある風景が見えて、1時間くらい前に通ったことに気づいて笑う。その後も見覚えのある店、通り、家、ジャージ、顔…

「はっ!?」

信号待ちの停車中。コンビニの前、ジャージの集団。あの趣味の悪い、笹のデザインされた…。
テニス部だ。
近くで見なくたってわかる。緑のバンダナと坊主2人、あの金色に揺れる髪。あの4人は、まさしく私がこの4時間近く捜していた四天宝寺中テニス部だ。

私が興奮していても、構わずにバスは発車する。ぺたと窓に手を付き遠ざかろうとする彼らを見ていると、ふと謙也がこっちに視線を向けた。でも、目が合う前にバスが発車してしまう。

ああ、くそ!神様の意地悪!!

ダンっと力任せに停車ボタンを押すと、私の心とは裏腹にピンポーンと軽快な音がなり響いた。大丈夫、バス停で降りて、すぐに走れば大丈夫。早く、早く、と思う余り貧乏揺すりをしそうになる足を押さえつけて、四天宝寺中が見えてくると足早に最前列へ向かった。チャージしておいた電子端末を押し付けて、一目散に来た道を引き返す。

コンビニ、コンビニ!ローソン!見えた!

バッと店の前に飛び出す。ジャージの軍団が驚いたようにこっちを見た。ただし、青いジャージの軍団が。い、いねぇ…!ぜぇぜぇと肩を揺らす私をジャージ軍団が奇異の目で見る。誰かが行こうぜと声を発して、未だ荒い呼吸を繰り返す私を置いて立ち去った。

「なんでいないの…!どこ行ったんだよ!もう!」

思わず声に出して愚痴る。ちょっとくらい、ちょっとくらい待ってくれたっていいじゃないか。折角神奈川から遥々来たのに。

「ねーちゃん、何か探しもんか?」
「え?ああ、ちょっと…」

親切な人がいたもんだ。独り言を呟くやつに声を掛けるなんて、と俯いていた顔を上げると、見覚えのある顔がこっちを伺っていた。

「金ちゃん…!」
「あー!昼間のねーちゃんや!」
「え…!」
「あれ?ワイの名前知っとるん?」

3つの意味で心臓が大きく脈打つ。金ちゃんが目の前にいること、うっかり金ちゃんの名前を呼んでしまったこと、そして尾行がバレていたことだ。一気に色々な緊張が来て、目を白黒させている私に金ちゃんはずいっと近づいてもう一度何で?と問うた。

「えっと…ホラ、私宇宙人だから!」
「えーーっ!姉ちゃん宇宙人なん!いややー!連れ去らんといて!」
「しないしない!良い宇宙人だし!」

我ながらなんてアホな言い訳だろう。それでも、ホンマに?と目を潤ませて聞いてくる金ちゃんのおかげで、その気になってくるからすごい。

「せやな!悪い宇宙人はたこ焼き食わへんよな!」
「うん。うん?たこ焼き?」
「姉ちゃん食ってたやろー!あと試合も見とった!」

結構な割合でバレていたらしい。爛々とした笑顔で試合どうやった?と聞く金ちゃんに、かっこよかったとかすごかったとか月並みな言葉を返せば、金ちゃんはおおきに!と最高の笑顔をくれた。

「ほんで?姉ちゃん探し物か?」
「え?いや…その観光しに来たの。東京から。ちょっと迷子なだけ」
「よっしゃ!そんならワイが案内したるわ!」
「えっ…わ!」

ぐいと金ちゃんは私の手を取り、私が走ってきた方向へとまた逆戻りし始めた。握られた手のひらにごつごつとしたマメが触れる。うわ、真田の手に似てる。その可愛らしい容姿からは想像できないほど金ちゃんは男らしい手をしていて、ひっそりと私は照れた。

130111
- ナノ -