AM6時に家を出て、電車に揺られる。昨日も東京のことを色々調べてたら遅くなってしまった。でもおかげで東京観光(?)は問題なくいきそうだ。普通の観光地に行かないのはもったいないかもしれないが、そりゃせっかく青学やら氷帝やらがあるのに見に行かないファンがどこにいるだろう。
とにかく、満喫するためにも今は睡眠だ。
電車に乗るやいなや座席に身を沈めて眠りの体制をとる。乗り換えだったり、移動だったりは全部お父さんに引っ張られてたのでほとんど記憶がなかった。睡眠は大事だ。
「由紀〜由紀、起きろ〜」
「んあ?」
それが泣きをみることにもなるわけだが。
「着いたぞ、大阪!」
「お〜…んー!長かったぁ…やっと大阪……大阪…?」
新幹線の窓から見える新大阪の文字。ど、どういうことだ?私は東京に向かってたはずでは…?
「お父さん、大阪…」
「そうだぞー大阪だぞー。なんだ元気ないな。まだ眠い?」
起きたら見知らぬ土地でした。なんかの小説の冒頭みたいだ。しかしこれは現実。駅のホームにはしっかりと大阪、と掲示されている。
混乱してる間にも話はトントンと進み、あっという間にホテルについた。
「チェックインはまだできないから荷物預けてあと自由な。お父さんもう行かなきゃいけないから、なんかあったら携帯にかけてきなさい」
「うん…」
「じゃあ気をつけてね」
よくわからんが、私が東京出張だと勘違いしていたらしいことは察した。
バタバタと忙しく駆けていったお父さんの背中を見送る。わがまま言って連れてきてくれたのにお父さんに迷惑かけるのはルール違反だ。カバンの中には東京散策用の地図、メモ。なんの役にも立たない。
大阪といえば四天宝寺中があるけど、なんの下調べもしてない私がたどり着くのは難しいだろう。
「なんでやねん…」
く、悔しい…!東京をばっちり調べたのが無駄になったのもそうだけど、めったに来られない大阪にいるというのに四天宝寺中を何も調べてないことが悔しい。
携帯で調べようかと一瞬よぎったが、お父さんとの連絡用に電池は温存しておかなくちゃいけない。ここは大人しく、近くにあるという繁華街に行くのが正解だろう。
「たこ焼きくお…」
バスに揺られて5分くらい。みたことある人形とかカニとか色々あって、落ちていた私のテンションは見事に回復していた。どこもかしこもごちゃごちゃしていて普段ならうんざりしそうだけど、知らない土地という事実が私を興奮させていた。キョロキョロする姿はさながらおのぼりさんだろう。
カニ写真とろう。
手っ取り早く写メしてまゆさんにメールを送る。今9時くらい。まゆさん寝てるわ。つまらないから大利根にもメールしてみたけど、部活中なのかメールが返ってくることはなかった。この分じゃ仁王に送っても一緒だろうからやめておこう。
しかし、早すぎて開いてる店が少ない。しかたなく(と言ったら失礼だが)魚屋さんで金目鯛と目を合わせていたら、店主っぽいおじさんがニコニコしながら話しかけてきた。
「おじょーちゃん一人なん?観光?」
「あ、はい」
「せやったらオススメのたこ焼き屋おしえたるわ!ちょっと待っとき!」
「あ、」
りがとうございます。と続くはずだった私の言葉を聞くこともなくおじさんは奥に引っ込んでいった。本当に大阪の人って面倒見いいんだ…。おじさんがいい人なだけかな。
若干初関西弁にソワソワしながら待ってると、紙を持ったおじさんが小走りで戻ってきた。どうやら地図を書いてくれたみたいだ。
「ちょっと歩くんやけど、こっからまっすぐこの道をすすんで…」
「わぁ…わざわざありがとうございます」
「ええってことよ!おとーちゃんとかにウチの宣伝しといてや!」
きーつけやー!と大きく手を振って見送ってくれるおじさんに若干照れつつ手を振り返した。お父さんにここで干物を買って帰るように勧めておこうと思う。商売上手だな。ちなみに記念におじさんと写真をとった。
たこ焼きは後の楽しみにとっておこうと思う。今はあいにくお腹空いてないし。
ようやく開き始めた土産物屋の店頭に気になるものをみつけて立ち止まる。
「大阪限定…」
と書いてある熊はなんだか真田に似ている。土産に、とおもったけど、真田が熊のマスコットなんぞつけてるイメージがなかったので棚に戻した。つもりだったのだがいつのまにかお買い上げしていた。きっと真田はもらったものならつけるたちだろう。カバンにつけてもらおう。面白そうだ。
にやける顔を隠しながら歩いていると、一際大きくて元気で、どこか聞き覚えのある声が聞こえた。
「おっちゃんたこやきひとつー!」
看板を見上げて、ここがおじさんが言っていたたこ焼き屋だと悟る。頑固そうなおじさんが、おじさん…おじさんの前で飛び跳ねてるのは……?
「金太郎、朝から元気やなー!ちょっと待っとき、出来たて用意したるからな!」
「おっちゃんおおきに!」
赤い髪に赤いパーカー。そしてあの身のこなしとトレードマークのヒョウ柄タンク。
遠山金太郎、その人がほんの数メートル先に、いる。
120911