今日は金曜日。明日から東京でルンルンではあるけど、今日は憂鬱、日直である。日直の日はやたら先生当ててくるし、日誌に今日の出来事を書かなきゃいけないから嫌だ。毎回書くことねーよ…

「今日の日直〜…えーっと朝霞と…佐…いや、そこで寝てる大利根!授業終わったらこのノート職員室に持ってこい」

思いっきり顔をしかめてしまったが、先生には伝わることはなかった。とりあえず未だ寝こける大利根の椅子を蹴ると、ふがっと変な声をあげて飛び起きた。みんなに笑われて恥ずかしそうに周りを見回してたけど、知らんぷりしておいた。大利根と佐藤にやらせればいいのに。


「大利根。ほら、半分持って」
「え、もうちょい持つよ」
「いいって。早くいこ」

授業を終え、大利根はまだ眠そうに顔をしかめながらノートに手を伸ばす。結局3分の2くらい大利根が持ってくれて、私たちは職員室へ急ぐ。次の授業は移動だからだ。せかせか歩く私に対して、コンパスの違いはあれども、何故か大利根は随分ゆっくりしていて、私も別にいいかという気になってくる。急ぐこともないか。

「なあ、朝霞冬休みは何すんの?」
「冬休み〜?うーん、特に…おばあちゃんち行くくらいかな」
「そっかぁー」
「あ、でも明日から東京行く」
「東京?何で?」

斯く斯く然々説明すると、へーお父さん好きなんだなーと的外れな答えが返ってきた。そんなかわいい動機じゃないんだな〜これが。

「大利根は?どっか行く?」
「俺も特に…。な、なあ、初詣とか一緒に行かね?…あ、み、みんなで!」
「みんなで?いいんじゃん?」

まゆさん来るかな〜?寒がりだから家からでたがらないかもしんない。たこ焼き奢るって言っておびき出そう。そうしよう。むくむくと湧き上がるワクワク感に口元が上がる。こういう計画立てるのって大好きだ。

「朝霞さ、誰誘う?」
「まゆちゃん。あとは〜…クラスメートの方がいいよね」

あんまりクラスで一緒に初詣行くほど仲良い人っていないかも。寂しいなそりゃ。来年はクラスメートと仲良くなることを目標にしよう。っていうかクラス替えないからこのクラスか。そんなことをこっそり決心していると、大利根が神妙な顔でなあ、と呼びかけた。

「ん?」
「仁王は、呼ばねーの?」
「仁王?テニス部で行くんじゃないの?誘いたいなら大利根が誘えばいいじゃん」
「お、おう。そっか!」

大利根はどことなく嬉しそうに、ノートを抱えなおした。なんだこいつ。まだ私と仁王がどうのこうのって気にしてんのか?忙しいやつ。ちょっと何か言ってやろうかと思ったけど、嬉しそうな雰囲気に水をさすのはどうかと思ったから口を閉じた。


「失礼しましたー」
「したー」

軽く礼して職員室をでる。授業まであと5分。走れば間に合いそうだな。

「大利根、急いで、」
「朝霞!初詣さ、着物着てきてよ」
「あ?まあ、気が向いたら…」
「うん、期待してる!」

そう言うと大利根はダッシュで教室に向かって行った。残された私はポカーン。ややあってから予鈴がなって、私は正気に戻された。

「あ、授業…授業行かなきゃ…」

走って教室に向かってる最中に同じく移動教室の真田に会って、走ってることを咎められた。授業には遅刻した。とりあえず次の休み時間、大利根には八つ当たりとしてきなこ餅チロルをあげた。まぁ喜ぶんだけどさ。


と、まぁそれは置いといて、日直ということにより私の機嫌は急降下だ。ついでに言うと佐藤のせいでもある。

「佐藤のやろう…!帰りやがって!明日…休みか…月曜、ジュース奢ってもらお」

掃除とか日誌とかやることは割とめんどくさいのに、パートナーは颯爽と部活に行ってしまった。佐藤、絶対、締める。教室の掃除を早々に終わらせて、あとは黒板と日誌だけだ。日誌めんどくさい。嫌い。だらだらと日誌を書いていると、ガラッとドアが開く音がして反射的に顔をそっちに向けた。ひょっこりと赤い髪が覗く。私の姿を認めると、ぱっと表情を明るくして両手をあげた。なに、そのポーズ。

「朝霞じゃん。何?あ、日直だっけ」
「丸井くんだー。そう日直日直。丸井くんは部活は?」
「家の鍵置いてっちまって…あ、何か食いもんもってね?」

お腹をさすりながら近づいてきた丸井くんにチロルを3、4個渡す。もちろんきなこ餅中心に。丸井くんはパッと目を輝かせて至極嬉しそうにサンキュー!と良い笑顔をくれた。うん。私はそれでお腹いっぱいだよ。

「これで部活乗り切れるぜー!」
「そいつはよかった」
「今度礼すんな!」

気にすんなよ、と言いたかったが、真田の例もあるし、丸井くんの特技はお菓子づくりだった記憶もあるので素直に頷いた。私だっておいしいお菓子が食べたい。
丸井くんはチロルの包みを一つ開けて、私が書いた日誌を覗きながら口に放り込んだ。

「なにこれ。今日の出来事のとこ」
「ん?ああ…」
「ハハ、大利根が変って…!あいついっつも変だろい」
「んーまぁそうかも」

お前大利根と仲良いよなーっと妙に真面目な顔で頷かれた。確かに男子の中では一番仲良いかもしれない。と今更なことを言うと、丸井くんは苦虫を噛んだみたいな顔をした。何だろう。
丸井くんはじゃあ俺行くな、と片手を挙げて、もう一度チロルのお礼を言って去っていった。意外と礼儀正しいよね。お兄ちゃんだからかなぁ。そんな丸井くんの背中を見送って、日誌に視線を戻す。

「連絡って何書けばいいの…みんな何書いてんのかな」

ペラペラとページを捲ると、特になしだったり、短縮授業の連絡だったりと色々なことが書いてあるみたいだった。特になしでいいのかと思って自分のページに戻ろうとしたところで、一つ目に留まるものがあった。

「アハハ、ドキドキしたってなんだ」

赤い字で恋ですか?と担任からコメントが書かれている。恋って…誰だよと思って名前を見ると記入者の欄には仁王、と見慣れた名前が書かれていた。日付は10月1日。あの子日直とかちゃんとやるんだ。

注意事項に特になしと書いて、職員室へ急いだ。
家についてから黒板掃除の存在を思い出した。


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