「まゆさん今日の体育バレーですよ!やったね!」
「そうだね。あんたバレー好きだっけ」
「いや特に!」

12月も2週間くらいたった12日。今日は私はご機嫌である。なんでかって特になんでもないんだけど、あるじゃんそういう日。ちなみに幸村のとこ行ってから今日までのことを軽く紹介すると、駅前においしい肉屋さんができたっていうのが一番のイベントになる。あと真田と仲直りした。割とあっさり。

「まゆちゃん肉屋のコロッケ食べた?」
「メンチしか食べてない」
「おいしいよね!」

今度行こうよ!ってたまには女子中学生らしいことを言おうと思ったけど、肉屋はないなと思ってやめておいた。

はしゃいでた割にバレーの試合は全く集中しないで、頭にボールとかベタなこともやったが何も問題なく終わった。そういえば仁王の姿が見えなかったからサボリかもしれない。

「朝霞さん、真田来てるよ」
「真田?」

着替えも終わって4限目が始まるのを待つのみ、といったところで真田がクラスに現れた。ドアの向こうにドーンと立っている姿はなんとなく面白い。

「おっすーどうしたの?」
「…何を笑っている。先日お前が菓子折りを持ってきただろう」
「ああ、あれね」

真田と仲直りした日、あまりにも気まずくてそれを誤魔化すために菓子折りを持参してみた。神奈川銘菓、観音最中である。それを差し出して頭を下げると、最初は目を見張って驚いた様子の真田だったが、すぐに同じように頭を下げた。そんで、また前みたく習字の練習をした。それだけ。ちなみに風はまた練習し直しだ。

「俺だけもらうのは筋が通らん」
「え、気にしないでいいのに」
「いいや。祖父の手作りだがな」
「何?」
「羊羹だ」
「ようかん!」

好物の一つだったりする。今日はすごい。なんでもうまくいく日なんじゃなかろうか。真田に差し出された重箱を嬉々として受け取って舐めまわすように見た。見えないけどなんかうまそう!

「わー!本当にいいの?」
「ああ」
「真田も食べたいんじゃない?お昼に…あ、でもまゆちゃんと大利根にも…」
「俺はいつでも食べれる。お前が好きにしろ」
「うう…ありがとう」

ぽん、と頭に触れて真田は隣のクラスに戻っていった。怒られるから言わないけど、本当お父さんみたいだ。変に気まずいままじゃなくてよかった。気まずいからって切り捨てるのは、できないタイプの人間だと思う。

「まゆちゃん!大利根!羊羹たべよ!」

正直真田と噂になってたのはまんざらでもないよな。だって真田と付き合ったら幸せになれそうじゃん。その気はないけど。

そして絶品の羊羹に舌鼓を打つ。




「たっだいまー!」
「おかえりー」
「あれ、お父さんいる。早いね」

上機嫌のまま家に帰ると、いつもは帰りの遅いお父さんが麦茶片手に新聞を読んでいた。どうでもいいけど、父は酒が飲めない。

「由紀、週末の出張ついてきたいんだろ?」
「出張…ああ!!出張!うんうん!!」
「土曜日の朝はやーくでるけど平気か?」
「まかせろ」

そうだそうだ。色々あってすっかり忘れてたが東京!ついに行くんだった。下調べとか色々やんなきゃ。

「土曜日はお父さんまるまる用事あるから1人だけど平気か?」
「平気平気!」
「んじゃ、夜合流して飯食おうな」
「うん!」

今までになく元気な返事だったと思う。お父さんもちょっとびっくりしてるみたいだった。不純な動機でごめんね。

「おいしい店とか調べといてね。寿司とか」
「おぉ、おっけー」

早速部屋に籠もって東京をマスターすることにしよう。
まずどこに行くかリストアップしなきゃな。あー楽しみ。キャラに会えるかどうかは運次第だけど、生活してる空間は間違いなく見れるわけだし…写真とか撮りまくったろ。

「青学、氷帝、あと山吹とか不動峰もそうか…1日で回りきれるかな…あ、あと!」

跡部の家!

「なんつって流石に個人の家は調べても出てこないよな〜……」

なんておもしろ半分で調べてみたけど、案の定でて、きた。

住所はまだしも外観も、つーか一緒に跡部写ってるし。本当に観光地みたいになってるんだな…。あと跡部くん久しぶりに見たけど相変わらずかっこいいというか麗しいというか…。2年生の跡部くんはこんな感じなんだ。若干若いような気がする。是非とも生でみたいものだ。

「ぬおーやべーわー」

考えれば考えるほど楽しい。やっぱこれこそ漫画の世界にいる醍醐味だよね!知らんけど!あれだろ?東京で迷子になってたら跡部様とかが「なんだ迷子か。あーん?」みたいな!そんで色々あって「お前面白い女じゃねーか、あーん?」みたいな!完璧に調べすぎて迷子になる予定ねーけど!

「由紀、百面相してないで風呂はいっちゃいなさい」
「…はぁい」

ドアから覗いてた母に失笑されながらも、私の機嫌は降下することはなかった。

待ってろ東京!

120829
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