空が青い。
いつものことだけど、フィデルにはいつもの数倍美しい空に見えた。

「外…!外ですよ!ディスイズ外気!わーー!!」

約4ヶ月ぶりに吸った外の空気は、それはそれは美味しいものだった。手を掲げて空を仰ぎ見るフィデルをアリババは少し笑って見た。

「良かったですね」
「アリババ様のおかげですよ〜!本当にありがとうございます!」
「いやぁ…俺なんて…」
「いいえ!誰がなんと言おうとアリババ様のおかげです!」

目を輝かせて力説するフィデルに少し苦笑する。
なんだかこの人、自分に対して大げさな気がする。
何をした覚えもなかったが、最初に出会った時から自分に対してかしこまっている雰囲気をアリババは感じていた。

「(アリババ"様"だしなぁ…)」

アラジンを巻き込んではしゃぎ回るフィデルを、やっぱりアリババは少し笑ってしまった。フィデルの境遇には同情しているが、アリババはフィデルの事をほとんど知らなかった。知っているのは、肩書きと境遇だけ。何故彼が異なる世界から来ただとか、そこの軍人だったとか、荒唐無稽な話を信じられるか、自分でもよくわからなかった。

「フィデルちゃ〜ん!」
「ピスティさっ…コルーン!!!」

自分の名前を呼ぶ声にフィデルが振り向くと小柄な少女がこちらに掛け寄って来ていた。フィデルはピスティの肩に愛鳥の姿を見とめると、バッと腕を広げ受け止める姿勢になる。ピスティはこれ幸いとばかりに抱きつこうとしたが、それよりも早く肩から白い鳥が真っ直ぐ飛び込んでいって、頭の周りをグルグルと飛び回った。それから肩に留まって、首筋にグリグリと頭をこすりつける。

「俺のコルン…!ピスティ様ありがとうございます〜!」
「…。いいよ、とっても良い子だったし!それより外出れて良かったね!」
「はい!」

気を取り直したピスティはにこやかにフィデルに話しかける。アラジンは興味深々にコルンに手を伸ばしたが、久々の主人との再会だからか、コルンはアラジンの手は見てみぬふりをしていた。

「フィデルちゃんが軍人さんねぇ〜」
「あはは、見えません?よく言われます」
「ううん。ただ、そのお堅い態度はだからか〜って。ピスティ様ってちょっと嫌だなぁ」
「そう言われましても…」
「私フィデルちゃんと仲良くなりたいんだけど」

「(あ…)」

アリババはピスティの言葉を聞いて、自分が同じようにフィデルと仲良くなりたがっている事に気がついた。何故?たかだか2、3回話した程度なのに?

と、そんなことを考えている間に、いつのまにかフィデルはピスティに追いつめられていた。ピスティの可愛らしい顔が色気たっぷりにフィデルの眼前に迫っていて、ドキーッと瞬時に緊張が走った。

「ピスティ、って呼んで?」
「ひ、あの…」
「ピスティ」
「ぴ、ピスティ…」

それを聞くとピスティはにっこり笑って、体を離した。同時にアリババも胸を撫で下ろす。

「アハハ!フィデルちゃん顔真っ赤〜!」
「か、からかわないでくださいよ!」

じゃ、ちゃんと返したからね〜!と何事もなかったようにピスティは去り、残されたフィデルは深く溜め息をついた。それからアリババとアラジンを見やり、お見苦しい所をお見せしました…と頭を下げた。

「コルンって言うのかい?おにいさんの鳥?」
「うん」
「この子は、こっちの子?」
「え?いいや、むこうの…」
「そうなんだ…むこうの人達は皆ルフが通ってないのかと思ったけど、君だけなんだね」

フィデルはコテンと首を傾げ、アラジンにはルフっていうのがどう見えているんですか?と訪ねた。アラジンは少し考えてから口を開いた。

「ルフって、鳥みたいな感じで、色んな所を飛び回ってるんだ。でも…なんていうか…おにいさんの事避けてるんだよね」
「は?」
「おにいさんの周りだけ全くルフが居ないんだ。こんなことってないから…すごく気味が悪い」
「…そう」
「あっフィデルくんを気味が悪いって言ってるんじゃないからね!」

フィデルは引きつった笑みで、頷いた。アリババにはアラジンが言っている事はほとんど理解できなかったけど、彼が他と違う感じがするっていうのは納得できた。

「フィデルさんはこれからどうするんですか?」
「これから…そうですね、もう少しここに居てから…魔法が盛んな国に行きたいと考えています」
「魔法?」
「ええ。うちには全くなかったものなので…。まだこの目で見たこともないんですけどね」

困ったように笑うフィデルを見て、アリババとアラジンは顔を見合わせた。アラジンは悪戯っぽく笑って頷いた。


「灼熱の双掌!」
「うわぁああ!」

ゴォっと小さく上がった火の柱にフィデルは歓声を挙げる。目を輝かせて、頬を染めて、初めての魔法に対する感動を全身で表すフィデルに、アラジンは胸が温かくなるのを感じた。自分の魔法がこんなところでも役に立つなんて。

「すごい!」
「あ、ちょっとフィデルくん!あんまり近づくと危なっ…」
「熱くないー!!すごーい!!」
「…あれ?」

フィデルが火柱に手を突っ込むのを見て、慌てて魔法を収めたアラジンだったが、フィデルから出た言葉は予想外だった。ケロッとした顔で自らの掌を見つめるフィデルには、火傷の痕も何もない。
失敗していたのかな?幾度となく助けられてきた魔法だから、失敗することはないと思っていたけれど…。
少し怒った顔で注意するアリババに、フィデルは泣きそうな顔で謝っていた。何はともあれ、失敗していて良かった。アラジンがアリババに加勢するとフィデルは益々目を潤めるので、最後には何故かアリババが謝罪する羽目になった。

「あれっフィデルくん袖焦げてるよ!」
「え?あれ!なんで!」
「失敗してたんじゃなかったのか?」
「服なんてほとんど持ってないのにー!」

130620
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