1週間。1週間が経った。
軟禁生活といえば、ある程度不自由があると覚悟していたが…なんだろう…このゴージャス感は…!

「たるむ…絶対たるむ…」

ウロウロと部屋を徘徊しないと落ちつきやしない。正直言って、俺が住んだことのある部屋の中で、軟禁されているはずのこの部屋が一番高級である。しかも、3食風呂つき。なんという好待遇だ。信じられない。そりゃ、外に出られないとか、いつも監視がつくとかの不自由さはあるが、それが気にならない人にとっては一生このままでもいいかもしれない。あいにく俺は気になるタイプだが。

「こんな部屋身に余る…!むしろ牢屋にいれてくれよ…」
「君ドMなの?」
「………」

ふわふわと部屋に浮かぶ緑の影を睨みつける。マスティマさんはぼんやりとした霧状になっていて、実体はほとんどない。それが一番エコらしい。良くわからないけど。
この部屋に入る時に身に着けていたものは全て回収された。にもかかわらず、マスティマさんは当然のようにここにいる。マスティマさん曰く、「あんなの飾りみたいなもんだからね」だそうだ。

あれだけ情報に囲まれていたというのに、今は打って変わって何もない。知識欲で飢え死にしそうだ。何にせよ一生ここにいるわけには行かないし、シンさんが帰ってきたら即効で交渉しよう。あの人はたぶん聞く耳持たないし。上司と一緒で。

因みにマイ スウィート コルンはピスティ様が面倒を見てくれているそうだ。伝書鳩として仲間と連絡をとられると困るからって、そんなことできてたらすぐしてるって。

…なんでこんなに状況説明をしてるかって?することがないんだよ!全く!
初め2日はひたっすら筋トレをしていたが、あんまりしすぎてムキムキになっても困るから止めた。見張られてる状況じゃマスティマさんとも話せないし、掃除やろうとすると止められるし…

「あーー!!」

とうとう叫びだした俺の耳にコンコンと控えめなノックの音が飛び込んでくる。続いて「ティーさん」と偽名を呼ぶ声。いや、もしかしなくてもこの声は…

「あ、アリババ様…?」
「はい、俺です!」

うわ、わ、どうしよう!失礼な格好はしてないだろうか。鏡に映した自分を素早く、入念にチェックする。髪長い!汚らしい!クソ、と小さくグチが零れる。こんなとこにいなきゃ散髪してからアリババ様に会えたのに!
とにかくキレイめに結びなおして、深く息を吐く。ああ、駄目だ。陛下とは違うとわかっててもこのざまだ。

「すみません、お待たせしました。どうぞ。……!?」
「こっちこそ、突然すいません」

現れた2つの巨体。
目を白黒させる私に気づくことなく、アリババ様とアラジンは護衛?を連れて部屋に入り込んだ。あれ…前にお会いしたときは、もう少しスマートだった気がするんだけど…

「えっと…少し、ふくよかになられました…?」
「え?ああ、ここの料理すげーおいしくて!なぁ、アラジン」
「うん!」

脂肪を溜め込んだ代わりに、色々鬱憤は出しているのか、妙に晴れ晴れとした笑顔をこっちに向ける。…元気ならいっか!
それから、ちょっと不安そうな顔をして、上目遣いにこちらを窺う。

「軟禁されたって聞いて…えっと」
「おにいさんは、おじさんにとって悪いことをしようとしているのかい?」

ストレートな物言いにアラジン!とアリババ様が咎めるように名前を呼ぶ。有り難いけれど、ノープロブレムだ。私にやましいことなど1つだってない。アリババ様に誓って!

「色々言ってないことがあるだけなんです。シンドリアにとって不利益になることは致しません。ましてや、あなた方にも」
「攻略者だってことも言ってなかったんですよね?」
「正直に言えば、それがどんな意味を持つのか知らなかったんです」

ふとアラジンと目が合って、じぃと私の奥底を見るように見つめられる。これは反らしたらいけないやつのような気がして、負けじと見つめ返した。ややあってから、アラジンはにこりと笑って小さく頷いた。

「うん、僕おにいさんを信じるよ」
「ありがとうございます…?」

なんて純粋な目だ。見てると自分の汚いところが浮き彫りになるようで、ゾクリと背筋に何かが走る。決してアリババ様を邪な目では見てないです!

「俺も、ティーさんが悪い人な気はしないんだ」
「っ…」
「まぁ、俺のは勘だけど…」
「あ、ありがとうございます!」

あれ、なんでこんなに私よろこんでいるんだろう。完全にアリババ様と陛下を重ねて見ている。

「でも、1つだけ聞きたいことがあるんだ」
「へ?私にですか?」
「うん。ティーさんは、どこから来たんだい?」

嫌悪感に沈んだ思考がふわりと浮き上がる。真っ直ぐな目。曇りのない、綺麗な目。

「アラジン…君は一体…」
「僕はマギ。」
「マギ…」

頭の中で文献のページをひたすらめくる。そうだ、マギ。文献を読んでもさっぱり想像の出来なかった、創世の魔法使いとやらがこの、なんでもないような少年なのか。

「じゃあ、アリババ様は…」
「僕が選んだ王の器さ!」

その言葉を聞いて、アリババ様を見た瞬間、ぶわりと何かが舞い上がった気がした。

「魂は一緒だから」

いつかのマスティマさんの言葉が、胸にコトリとはまる。


「アリババ様、アラジン」

トン、と片膝を床について、胸に拳を当てる。2人は何事かと驚いたように目を見開いたが、私は安心させるように微笑んでから目を伏せた。

「今までの非礼をお許し下さい」
「ティーさん…?」
「いいえ。もうご存じかと思われますが、私はフィデルと申します。正式にはアシュケナジム帝国王直属軍中央隊所属、フィデル・ウィオラ少将であります」

2人はしばらく言葉をなくしていた様子だったが、後ろの付き人の1人が怪訝そうに我が国の名前を繰り返した。

「ええ。私も地図で確認しましたが、アシュケナジム帝国はこの世界には存在致しません」
「存在…しない…?」
「そっか…」

アラジンは納得したように頷く。アリババ様の視線は説明を求めるようにアラジンへと向いた。

「フィデルおにいさんは、ここじゃない世界から来たんだね?」

その言葉に、少し間を開けて頷く。もう殆ど認めてはいたが、改めて他人から言われると、何となく同意したくなかった。


130225
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