ばさばさと愛用の鞄をひっくり返して必要のない物を取り出して必要な物を次々と鞄に詰め込んでいく。出来るだけ軽量な装備を持ちたいのだが、ここで出し惜しみをして後でな気を見るのは馬鹿のする事だ。だから慎重に荷物の内容は取捨選択しなければならない。

今回の旅は久しぶりに探索隊を連れて出る予定だ。
今まで戦闘集団やらお散歩組にかまけて探索隊はボックスでのんびりしてもらっていた。だがそろそろ彼らの欲求も抑えられないだろうし、下手に抑えれば厄介な事になるとナマエは古くから学んでいた。

「んー…、こんなもんかな」

鞄の中身を見直す。傷薬やその他必要そうな回復系アイテム。念の為にあなぬけのヒモ。それから食料やら水やらと旅支度に抜かりがないかを確認した。


*****


陽の光が届かない位鬱蒼と生い茂る木々が集まった神聖な森。森の中頃には森の神様を祀る祠が存在し、祀られているのは時を司るポケモンなのだという。

ナマエが今回探索地として選んだのがこのウバメの森だった。ジョウト地方のジムバッチを集める際に何度か通った道程だが深く探索しようと思った事は無かった。その為に今回探索隊を引き連れてやってきたのだが、失敗だったかもしれない。

「ちょっ、待って待って待って、チルタリス、勝手に道を逸れないで!!ってワタッコまで!!待ちなさいこのモフモフコンビイイイイ!!あ、リングマも木の実に釣られてふらふらしないの!!単独行動良くない!!木の実はあとで取りに行くから今は待って!!ユキメノコは一人で進まない!!」

何かに気を取られたのかチルタリスとワタッコが揃って道から外れ、道なき道と言っても過言でもないような獣道を突き進み、随伴していた筈のリングマが好みの実の匂いを嗅ぎ付けたのかふらりと離れた。ユキメノコは他のポケモンには目もくれず勝手に道を進んでいく。

「ん!?あれ?ちょ、ロゼリアは!?ロゼリアはどこに行ったの!?」

場所はウバメの森の奥の奥。人が決して入らないような奥深くをナマエ一行は探索していた。

ナマエは自分の手持ちをある程度分けている。それは大体性格で分けられていて、バトル大好き戦闘狂は戦闘狂でパーティーを固め、散歩が好きなのんびり屋はのんびり屋で固まっている。ナマエが《探索隊》と呼ぶパーティーもそうである。
探索が大好きな、それはもう好奇心が旺盛なポケモンを選りすぐったパーティーが《探索隊》だ。
彼らは好奇心が旺盛で目に付く全ての物に興味を惹かれる。例えバトルの最中であっても興味の惹かれる物があったらそっちに気が逸れてしまうレベル。逆に言えばバトルには一切何ら興味は惹かれず、バトル大好き《戦闘集団》の対極に位置するパーティーだった。だからこそ、手が掛かる。

大体いつもの探索はみんなを全員ボールから出して歩き回るのだがこれが一苦労。
みんな好き勝手に欲望の命じるまま歩き回ってナマエは毎回必死に逸れないようにまとめ上げるのだ。――が、ロゼリアがいない。

「またかあああああああ、またあの子かあああああああああ!!」

探索隊の中でも一番の問題児、その名もロゼリア。他の子達よりも好奇心が強く、しかも体が0.3mという事から何処へでも入れる。毎回毎回彼女は行方不明になり何食わぬ顔で見つかって不思議そうな顔をする。彼女は自分がはぐれたという認識はなかったりする。いつもナマエ達が迷子になってロゼリアが見つけてやったという認識なのだ。本当に一番タチが悪い。

ナマエは探索隊と行動する時に必ず持ち歩いている笛を鳴らした。ピーっと甲高い音が鳴って、この時ばかりは探索隊の面々も単独行動を自粛する。

「えー、毎度お馴染み、ロゼリアの捜索に入ります」

もう殆ど好奇心が満たされていたポケモン達は「やれやれ仕方ないなあ」と言いたそうな顔でナマエの指示通りに動き出した。


*****


ロゼリアはとてとてとウバメの森を練り歩いた。群集した木の隙間や草むらをかき分けて思いのままに歩き回る。つい先程視線の先で気になる気配がしたから追いかけてみたのだ。
まだロゼリアを誘うように目の前で揺れるあの子は楽しそうにくすくす笑っている。なんだか追いかけっこをしている気分になってロゼリアも楽しくなってきた。

ゆらゆら花が舞うように眼前のあの子が舞って、負けじとロゼリアもくるくる踊って見せた。二匹が舞ってどこからともなく可愛らしい花弁が散った。
それはとても幻想的な雰囲気で自分のマスターが見たらきっと喜んでくれるのだろうな、と思い後ろを振り返ってみる。赤い上着がトレードマークのマスターの姿が無い。

やれやれまたか、とロゼリアは肩を落とした。どうも自分のマスターは迷子癖があるようだ。ロゼリア達と出掛ける時は大抵迷子になってロゼリアが探しに行くのである。全く仕方のないマスターだがそれなりに長い付き合いだから最早日常と言っても過言ではない。

一緒に追いかけっこと踊りを楽しんでいたポケモンに振り返って「マスターが迷子になってしまったから探しに行ってくる」と告げた。きょとんとしたあの子はまたくすくすと笑って「じゃあ手伝うよ」と返された。見た事もないポケモンだけれど両者に害意は無いのだからいいだろうと了承する。
斯くして迷子のマスター探しが始まった。

「マスターはいっつも迷子になるんだ」とロゼリアが言う。
「それは大変だね」とあの子は言う。
「毎回毎回大変だけど、探すんだ」とロゼリアが言う。
「大好きだから?」とあの子が問う。
「そう。だーいすきだから、毎回毎回探すんだ」とロゼリアが答える。
「じゃあ、早く見つけないとね」とあの子は笑った。
「そう。早く見つけないと」とロゼリアも笑った。

鬱蒼とした木々の森をあの子を歩いてマスターを探す。草むらをかき分けて木の根を乗り越えてあの子とお喋りしながらマスターを探した。

――遠くの方で、マスターの声がする。不安そうにロゼリアの名前を呼んでいる。
今まで自分の傍から消えていたマスターの存在を認識できて、ロゼリアは安堵に肩を落とした。
全く困ったマスターだ。そんなに不安そうな声で探す位なら最初から迷子にならないようにすればいいのに。

あの子と一緒にマスターの声がする方へ足を進めた。がさがさと草むらをかき分けて木の根を乗り越えればマスターの赤い上着が目に入る。近くにはチルタリスもワタッコもリングマもユキメノコもいた。
「マスター」と呼んでみればロゼリアに気付いたマスターはこちらに駆け寄ってきた。

「あああああやっと見つけたあああああロゼリアアアアアアア!!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。全く仕方のないマスターだ。
マスターも無事に見つかった事だし一緒に探してくれたあの子に「ありがとう」とお礼を言った。するとあの子はくすくすと笑って「どう致しまして」と返す。あの子はふっと掻き消えるようにして姿を消した。


「……え、セレビィ?」

そして最後にマスターの間抜けな声が残った。

大変お待たせいたしました……!参加ありがとうございました!
探索隊話。縁の中では探索隊が一番手のかかる子達と思ってたりいなかったり←

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