「この前さー、彼氏いないのに近所の人に『貴方の彼氏さんって素敵ね』って言われたんだけどー」

「そうかい」

「んでもって学校の友達とかにも『あんたの彼氏ハイスペック過ぎてありえない!あれよ、死ぬ気で捕まえとかないとダメよ!』って言われた」

「うん」

「お母さんに至ってはー、『いやー、これであんたの将来は安泰ね。お母さん安心したわー』って言われたー」

「良かったじゃないか」

「いやいやいやー」

「ほら、ここ間違ってる」

「えっ」

毎回休日はナマエが勉強をしていたりゲームをしていたりと様々で征十郎もまた様々な方法で休日を過ごすが二人が一緒に過ごすというのが定番だった。

そしてこれが今日の休日風景である。ナマエはのんびりと学校の宿題を進めながら向かいに座った征十郎に世間話をする。彼はどこの国の言語だかわからない難しい本を読みながら、時折ナマエの手元を覗き込んで間違った問題を指摘する。
今も彼は本を片手に持ちながら間違った問題を解説してナマエが正答を示すと満足そうに笑って本に視線を戻した。そしてナマエも次の問題に挑もうとプリントにペンを走らせながら話題の軌道を元に戻す。

「いやいやいや、征十郎くんのせいでしょー、これ」

「問題を間違えたのは君のせいだろう、ナマエ」

「問題に関してはそうだけど、違うー、そうじゃないー」

お互いに視線はプリントと本である。いつもの調子でのんびりと会話が続く。

「一体、いつの間に素敵でハイスペックで将来安泰な征十郎くんが私のカレシになったのさ」

「さあ、いつだろうね」

しれっと言いのけた年上を幼馴染をじろりと睨めつけてみるがこれが効いた試しは今でも無い。それでもそうせずにいられないのはそれ以外の反抗があまり意味がないからである。いや、これだって全然意味はないけども、やらないよりもやっといた方がいつかどうにかなるかもしれない。
しかし彼は気分を害した様子も無く楽しそうにキレイな顔を弛めるだけである。

全く、いつもそうだ。いつも彼はこうだ。飄々しててわけがわからない。というか頭が良すぎて何を考えているのか凡人なナマエにはわからない。だから彼がなんだってこんな噂を肯定しているのかが本気でわからない。

前はこんな風じゃなかったと思う。前は本当にただの幼馴染だ。むしろそれ以前にただの《近所のお兄さん》だった。
赤司の家は有名ではあるがナマエの家はそうでもない。一般から見れば良い方ではあるが、《お金持ち》の家から見ると普通の家だ。それでも家は近所で顔を見たら挨拶をして、時間がありそうだったら世間話して、いつの間にか互の親同士が仲良くなって。ナマエの親が都合の悪い時征十郎の家に預けられたり、逆に彼が家に来て面倒を見てもらう時が出てきて、ついでに勉強を見てもらったりだとかして。それでナマエの成績が上がってしまったものだから、更に両親は彼を懇意にしている。
征十郎の父もナマエを気に入っているように思う。ナマエが彼の家に行く時に何度か話した事がある。それから何かと「父からの土産だ」と言われてお菓子を受け取るようになった。断じて餌付けされている訳ではないが、ありがたくもらっている。貰う度に疑問は尽きないが征十郎に聞いてもはぐらかされるだけなので諦めた。

そんなこんなで、少し仲が良い《幼馴染》であって《カレシ》になるなんて事は無い筈だ。

「第一、その話だって僕のせいじゃない。僕は否定も肯定もしていないからね」

「確かに征十郎くんのせいじゃないかもだけど、責任の一端はあると思いマース」

「へえ?」

「噂の当事者は私と征十郎くんでしょ。否定も肯定も征十郎くんの自由だけどそれで出てくる弊害の責任は発生すると思いますが」

「弊害なんかあったのかい?」

「噂のせいで平々凡々な私にハイスペック彼氏ができたと誤解されて好奇の目に晒されてます」

「慣れだよ、慣れ」

くつくつと笑って彼は本に視線を戻した。何度か名前を読んで抗議の続きをしようとしたが全く本から視線が逸れないので征十郎に会話をする気がないのは見て取れた。ナマエも課題の最中だしとにかく本格的な抗議はこの課題を終わらせてからしっかりとやらせていただこうと思う。

大変お待たせいたしました!参加ありがとうございました!
歌とネタの方で悩みましたが赤司様ネタの方で書かせていただきました。
赤司様のあの手この手が少しずつ発覚してきた辺りです。夢主にはまだ危機感は無い

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