落ち着かない一日がやっと終わった。
バレンタインのこの日は、男女共に落ち着かない。女子はチョコを抱えてそわそわと落ち着かず、男子もチョコを貰えるか否かを考えてそわそわしていた。
結局笑う者と泣く者に別れて、バレンタインという日を終えた。
言うまでもなく、《ダメツナ》と称される綱吉はなんら関係の無いイベントだ。もしかしたら、と意中のめんどくさがりな少女から貰えないかと思っていたが、どうやら無いらしい。

押し付けられた日直の仕事終え、教室の戸締まりを確認する。最後に鞄と日誌を持って職員室の担任の元へ日誌を届けた。
ふう、と溜め息をついて下駄箱に行くと黒い髪の少女が仏頂面で立っていた。

「遅い」

「……名前?」

返事は無く、もう一度遅いと怒られた。
もう下校時刻間際だ。めんどくさがりな彼女は部活なんてものには入らずに、さっさと帰宅して行く。今この時間に、名前がいる事のなんたる珍しい事。
しかも名前の口振りからするに、綱吉を待っていたのだろうか。

「どうしたの、名前。珍しいね」

何であれ、彼女と話せるのが嬉しくて顔が綻ぶ。綱吉が歩み寄れば、名前は鞄を漁って一つの袋を取り出した。
半透明の包装紙に淡い水色のリボンで飾られたソレ。
渡されるままに手に取ってみると、仄かにチョコレートの香りがした。

「名前?」

「味の保証はしない」

きっぱりと言い放った名前は早々に立ち去ろうと振り返る。既に出してあった靴を履いて足を出す。

「ちょ、待って名前!もしかしてこれ、バレンタインのチョコ?」

「……」

答えない。綱吉の顔を見ようともしない。
これは、恥ずかしがっていると見た。

「ありがとう。嬉しいよ」

受け取ったチョコを大事に扱って、名前にお礼を伝える。ついでに彼女が先に帰ってしまわないように手を握りながら、綱吉は自分の下駄箱へと歩く。
無言だった名前が小さく呟いた。

「別に、綱吉の為じゃない」

「うん」

「お母さんが、作ったら、って言ったから作ってみただけで、別に綱吉にあげる為に作ったんじゃない」

「うん」

彼女は珍しく饒舌だった。
小百合に作ったら、と言われただけだと。綱吉の為ではないと弁明する名前はずっと下を向いていた。
そう言うが、だったら彼女は作らない。めんどくさがりな彼女がまた面倒なお菓子作りなんてものはしない。

「それでも、ありがとう」

綱吉も靴を履いて、名前の手を引いて帰路につく。寒い風が吹き荒んで二人の髪を揺らした。

「……」

「これ、何作ったの?」

「……クッキー」

「凄いね。俺は料理なんかからっきしだから、作れそうにないなあ」

「……混ぜて焼くだけ」

「まあそうなんだけどね」

彼女は相変わらず必要最低限の返事を返すだけ。
それでも最初の頃に比べればちゃんと返事を返してくれる。これは綱吉にとって大きな進歩だ。

「ね、名前。来年もくれる?」

「図々しい」

ばっさりと切られた。

「……覚えてたら、考える」

「そっか」

本当に、大きな進歩だ。


Happy Valentine Day



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