「はい、ナマエにあげる」

フロリアンが差し出したのは綺麗な赤いバラのブーケだった。
綺麗なバラの花束がレースとピンクのリボンで飾られている可愛らしいもの。

それを唐突にフロリアンから差し出され、名前はきょとんと惚ける。

「あれ、もしかしてナマエってバラ好きじゃなかったかな」

何の反応も見せない名前にフロリアンは苦笑する。
これはとんだ失敗をしてしまったかもしれない。
さてどうしようかと思案すれば、ようやっと名前が反応を示した。

「あ……そうか。ヨーロッパは逆、なんだっけ……」

「うん?」

「バレンタイン、なんでしょう?」

ふわりと花が開いたように彼女が笑った。
かっと熱を持った自身を悟られたくなくて、思わず顔を背けてしまう。不思議に思った名前がフロリアンの名を呼んだ。

「あ、いや。大丈夫。そうか、日本は女性が男性に渡すんだっけ」

「うん。それに、花じゃなくてお菓子。チョコを渡すの」

「変わってるね、日本は」

「そうかなあ……僕は日本のバレンタインの方が親しいから、よくわからない、かな」

くすくすと笑う名前を抱き締めてしまいたい衝動を抑えてフロリアンは持っていたバラのブーケを渡した。

「じゃあ、たまには貰ってみるのも良いかもね」

「……ありがとう。僕もね、フロウにチョコを作って来たよ。貰って、くれる……?」

思いもよらないプレゼントだ。断る理由など何処にも無い。名前がくれるものなら何でも受け取る。

「勿論」

「……良かった。抹茶のチョコを作ってきたの。前に美味しいって、言ってたから」

「うん。大切に食べさせて貰うね」

にっこりと笑って名前の頭を撫でると、恥ずかしくなってしまったのかブーケで顔を隠してしまった。微かに覗く額は赤く染まっていた。

「ナマエは怖がりの上に恥ずかしがり屋だね。顔、見せてくれないの?」

「……やだ」

「可愛いね、ナマエは」

「フロウは、いじわるだよ……」

うう、と唸る名前の頭を変わらず撫でていると、彼女がちらりとフロウを仰ぎ見た。

「ナマエ?」

「……赤いバラは好きだよ。フロウの瞳みたいに、綺麗だから、大好き。綺麗な赤はフロウみたいだから、みんな好き」

ぼそぼそ小さな声で伝えたい事を伝えて満足したらしい名前。彼女はもう一度礼を言って走り去っていった。

柄にも無く今フロウの顔は彼女に負けず劣らず真っ赤だろう。色んな感情がない交ぜになり処理が追い付かず動けなくなってしまった。
微動だにしないフロウを見て、通りすがったレイブンクローの生徒は不思議そうに首を傾げた。

(ああもう、どうしてやろうか!)



Happy Valentine Day



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