梅宮竜之介
S.Fであてがわれた宿の庭。真冬の最中、梅宮竜之介は力強く木刀を振る。 何百、何千と素振りを繰り返し、一定の数振り終えれば木刀を下ろし重く長く息を吐いた。微かに上がる息を整え、休憩をしようと背後を振り返った。
「お疲れ、竜」
「姐さん」
竜の背後に気配無く座っていたのは陸だった。 彼女の隣には茶器が用意されている。二つある湯呑みの内一つには茶が注がれているが、湯気がたっていないことから長い時間ここにいた事が伺えた。
「どうしたんですかィ、何か御用でも?」
「いいや、ただ竜が頑張ってたから茶の差し入れでもしようかと思ってな。なんかすげえ集中してたから声はかけなかった」
「あぁ、そりゃあありがとうございます」
へらりと緩く笑って見上げる陸に近付き、隣に腰掛けた。
「頑張るなあ、竜も、ファウストも」
「ダンナから受けた御恩を返す為です」
真剣な眼差しでそう言えば、隣の少女は楽しそうに笑った。
「姐さん?」
「葉は、凄いなあ」
楽しそうに、嬉しそうに陸が呟いた。くすくすと笑いながら、竜之介を見上げてもう一度言う。
「葉は凄いな」
ふわりと風が駆けた。
「あいつには、誰かに恩をうってやろうとか、見返りを求めたりしないんだよな。へらへら笑って、自分のしたいように行動して、それがいつの間にか誰かを助けたり救ったりしてる。葉は凄いな」
「……そうですね」
彼はいつも真っ直ぐで、しなやかに生きる。 彼が知らず知らずの内に与えたものが、少しずつ降り積もって多大な信頼へと変えた。 そして彼自身も、竜之介達に多大な信頼を寄せてくれる。
その信頼に応えたい。 彼の為に在りたい。 彼がいなければ、竜之介は今のようではいられなかった。 彼にそう言えば、それは竜之介自身の頑張りのお蔭であり自分は何もしていないと言うだろう。 それでも、葉は竜之介が変わる事の大きな要因であった事には変わりない。
隣に座る少女は、周りを舞う風で遊びながらまた一つ言葉を紡ぐ。 楽しそうに竜之介を見上げた陸が笑む。
「沢山積もるといいな」
「そうですねェ」
信用や信頼、愛情や友情など。 積もり積もって、大きな力になればいい。
大雪
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