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さあ、起きて歌姫

みんなみんな、君が目覚めるのを待っている

歌姫の憂いは全て我等が潰してしまおう

歌姫が心配する事は全て我等が無くしてあげる

歌姫の望むことは全て我等が叶えてあげる

全ては元に戻ったの

今度はきちんと守るから

歌姫、歌姫、歌姫

さあ、起きて歌姫

歌姫の体は戻ったよ

歌姫の魂は綺麗になった

歌姫の心は救われた

さあ、起きて歌姫

歌姫の大切なイタコの娘が呼んでいる

歌姫の愛した大地の少年は歌姫を待っているよ

歌姫、歌姫、歌姫

──さあ、目覚めの時間だ




心地よい水にたゆたう陸はふと懐かしい声を聞いた。
自分が眠りに落ちてからどれだけの時が経ったのかわからないけれど、懐かしい、と思う程の時は経ってしまったようだ。

──誰かが呼んでいる。

まだまだ眠たいけれど、あんなに呼ばれては応えないわけにはいかない。
水にたゆたう陸の身体は鉛のように重かったけれど力を入れて起き上がれば、ぱしゃんと水音を奏でた。その後すぐに陸の視界は白に染まった。


*****


白に染まり眩しくて固く閉じた瞳を開ければ懐かしい少女が横にいた。
陸の精神世界で幾度となく言葉を交わした少女が微笑んで陸の頭を撫でた。

「……おっきくなったなあアンナ」

ほんの少し声が掠れてしまっているが、長い間寝ていたのだから仕方無い。

「開口一番がそれってどういう事よ。心配したんだから謝罪くらいしなさい」

アンナの変わらない辛辣な物言いが懐かしく、面白い。

「うん、ごめん。悪かった」

起き上がろとしてみたが身体が動かなかった。
何年も眠りこけていたのだから仕方がないか、と息を吐き出しアンナを視線だけを動かし見る。

「おはよう、アンナ」

「いくらなんでも寝すぎだわ。陸が寝てから何年経ってると思ってるの。5年よ。5年も経ってるわ」

「意外に寝たね」

「ホントだわ。葉なんかS.Fに行っちゃったわよ」

「マジで。私が起きたら葉とアンナが側にいるって信じてたのに!」

「残念だったわね」

何気ないやり取りをしていると笑みがこぼれる。
葉がいない事は残念で仕方が無いけどアンナに会えたので良しとしよう。葉とはまた会えるのだから。
呑気に考えて入れば陸が寝かされている和室の障子がすらりと開いた。

「起きたか、陸」

入ってきた翁は以前一度だけ会った麻倉葉明。
あれ以来会う事は無かったがあれから変わらず元気なようだ。

「……アンナも葉明も都合良く来るけどなんで私が起きるってわかったんだよ」

ふと思い付いた疑問を素直に口に出せばアンナが立ち上がり、先程葉明が開けた障子を勢い良く開けた。
その開けた先には立派な日本庭園が広がっており全ての花が咲き乱れていた。

「昨日の一晩で庭の花が全て満開になったわ。季節も何も関係なく」

「それでわしが占ったら、お主は今日起きると出てな」

「……へえ」

その庭に目を向ければかつて陸が欲しかったものが広がっている。
覆い茂る数々の植物に綺麗に開けた青空。庭に吹く風は心地よく吹き抜け花の香りを運んでいた。

──それは陸が作り出した幻影ではない。

自然と涙が流れて微笑んだ。
陸がした事と言えば力を上げた。ただそれだけの事。
けれどそれだけの事が陸の一番の望みを叶えるために必要だった事。

「やっぱり、綺麗だった」

陸の望んだものが美しく咲き乱れている。
大地は潤い、花は咲き乱れ、心地良い風が吹きすさぶ。









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