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ハオと別れて洞窟を進みながら陸はアンナに叱られていた。
誰彼構わず喧嘩を買わないという事から始まりもっと節度ある行動をしろと怒られ、能力を乱用するな、無茶をするなら今すぐにでも出雲に帰すと脅された。そして今は何故かハオの愚痴に付き合わされうんざりする陸がいた。
どうやらハオの陸は僕の嫁宣言が大層気に入らなかったようだ。

「何がシャーマンキングの嫁よ!あたしがそう簡単に陸を手放すわけないじゃないの」

「うん」

「第一、葉の事を認めたけど陸を嫁に出す事は許してないわ!」

「うん」

「……真面目に聞いてるの」

「うん」

「……葉の事嫌い?」

「うん……っていってえ!」

アンナの愚痴を右から左に聞き流していた陸に気づきアンナに頭を殴られた。
陸がアンナを見れば射殺さんばかりに睨みつけられ震え上がる。気分としては蛇に睨まれた蛙だ。

「真面目に聞きなさいよ」

「ごめん」

全く、とため息をついてまた歩き出すアンナに陸は自然と苦笑が漏れた。自分の事を心配してくれているのはわかるのだが如何せん疲れている。アンナの扱いが疎かになっていて申し訳なく思う。
疲れている理由や上の空でいる理由をアンナはちゃんと理解しているからそんなに強く言わないのだ。

「大丈夫?陸さん」

「へーき。早く葉に会いたくて落ち着かないだけだって」

「陸さんは本当に葉くんが好きなんだね」

「そりゃあなあ。でも私もこんなに人を好きになるとは思わなかったよ」

「そうなの?」

「うん。前は人がどうでもよかったんだよ。誰が生きようが死のうが、どうでもいい。そういう薄情な人間だったんだけどね、葉に会ってから変わった」

陸の隣を歩くまん太は陸がとても優しい顔をしているのを見た。
それを見て凄く葉が好きなのだとわかるし、そうさせたのは葉だとわかる。

本当に葉は凄い人だとまん太は思う。

得てして人を良い方へ変えていってしまう。そんな人の友人でいる事が嬉しく誇らしい。
陸と並んで歩いていれば、不意に陸が立ち止まった。まん太が怪訝そうに陸にどうかしたか、と問うても返答は無い。
陸が視線をさまよわせていれば何かを見つけたように止まった。

「陸さん?」

じっ、と一点を見つめていた陸は視線を外さず微笑んでひらひらと手を振った。
明らかに困惑するまん太を余所に気が済んだのか手を降ろす。

「行くぞ、まん太」

「……何かいたの?」

「いんや、いたわけじゃないよ。見られてただけ。害はないから進もうか、まん太」

「大丈夫なの?」

「うん。それに早くしないとアンナにどやされる」

先程と同じように微笑んでまん太と歩いてゆく。
洞窟の出口はもうすぐだろう。


*****


岩がむき出しの壁に椅子や通信機器、カメラを置かれた部屋にゴルドバはいた。部屋の中心に置かれた椅子に深く腰掛け、洞窟内を映す画面を見つめている。
先程、3人の少女と小さな少年が通り過ぎていった所だ。

「ゴルドバ様、いま……」

「流石は《歌姫》という事だ」

一人の少女がパッチの仕掛けたカメラに気づいた上に手を振ってきた。

パッチはあの少女をよく知っている。

G.Sに仕え、守るパッチの族長や十祭司があの少女を知らぬ筈はないのだ。

「《歌姫》が起きた事はG.Sが言っていたが、何故S.Fに」

「彼女は麻倉の嫁だからでしょう」

「麻倉葉の為にパッチへ来たと?」

「恐らくは」

「いかが致しますか、ゴルドバ様」

G.Sが生まれる基を創り出した《歌姫》をこのままにしておくのは危険ではないだろうか、という懸念してゴルドバの意見を仰ぐ。
神クラスの持霊を持つシャーマンならば《歌姫》の存在を知っている可能性があり、S.F.に《歌姫》を利用される事は勝利以外の何ものでもない。ハオよりも強大な力を持った《歌姫》は脅威なのだ。

「……手を出してはならぬ。G.Sが愛する《歌姫》に手を出せばいくら我々でもお許しくださらないだろう」

「ですが、S.F.に介入されたら」

「《歌姫》とて馬鹿ではない。己の力を理解し、手はださんだろう」

恐らくは、ただ見にきただけ。
手を出してS.F.を引っ掻き回すような事はしないだろう。


*****


陸等が洞窟を抜けた先に見たものは、沢山の魂が集まり天へと伸びる発光体。
56憶年の星の記憶を持った全知全能の神、G.S。

《よくぞ目覚めてくだされた》
《歌姫、歌姫、やっと会えた》
《みんなあなたを待っていた》
《おかえり、おかえり、歌姫》

「ただいま」

何十億年という時を経て、《歌姫》は目覚めた。









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