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「それに、今のままじゃ陸を守るなんて事出来やしないしね」
ある程度は我慢していた陸だが、その言葉は聞き捨てなら無い。アンナの拘束を無理やり解いてハオを力いっぱい睨みつけた。
「確かに葉はまだ弱いけど、私を守ってくれてる」
「ふうん?今も君の傍にいないのにどうやって守ってるだい?」
「葉は私の身体を守ってくれてるわけねえ。第一、私の身体は一度滅んだんだ。今更この身体を傷一つ無く綺麗に保とうなんて思ってねえよ。葉は私の《心》を守ってくれてる。私はそれで十分なんだよ、馬鹿野郎!!」
陸は足元にあった石ころを拾い上げてハオに投げつけるも大して飛ばずに落ちた。 それを楽しそうに笑うハオが余計腹立たしくて盛大に舌打ちをしてギロリと睨みつけた。
「《浮け!力を孕んで打ちつけろ!》」
陸の足元にあった大小多数の石が言霊に反応して浮き上がりハオに向かって飛んでいく。 いきなり石が浮いて飛んだのを見たまん太が驚きの声を上げたが黙殺された。石の向かう先にいるハオが驚いた顔をするのも一瞬で石がハオを討つ前に燃え盛り、消し炭になって風に飛ばされ消えた。 それを見た陸は青筋をたてて更に力を込めた言霊を放つ。
「《浮け!》」
今度は石をかき集めて巨岩を作り出しそれを浮かせてハオめがけて投げつける。 ハオが微笑みながら手を翳して燃やそうとするも陸が何か手を加えたのか、燃えない。 また楽しそうに笑いながら巨岩を避けようとすれば足が動かなかった。 ふと足元を見やれば足が大地に飲み込まれていて動けない。ハオが驚いていると巨岩が真上に落ちてきた。
「よっしゃあ!」
「うわあああ、なにしてんの陸さん!!」
陸が両手を上げて喜んで、まん太は叫んでいる。 これで借りは返したと陸が喜んでいれば、がらがらと石が崩れて流れる音がした。巨岩が崩れて石の山になった中から砂埃を纏ったハオが立ち上がり服に着いた汚れを払う。
「ふう。今のは少し危なかったかな」
「ぅあああああ!なんで!」
「あれぐらいわけないよ。それより、起きたばかりだからかな。まだ感覚戻ってないんじゃない?本気だったら僕に傷負わすくらい簡単だろうに」
「うっせバーカ!もう一発食らわすぞこの――」
「いい加減にしなさい」
アンナに後ろから襟を掴まれてまた引き戻される。 一瞬息が詰まって陸はアンナを恨めしそうに睨みつけた。睨み付けてくる陸を無視してアンナはハオを見る。
「いいからさっさと葉の居場所教えなさいよ」
「そんな無茶な!!」
なんでもないように振る舞うアンナだけれど、これ以上陸に力を使わせて何かあってはいけないと心配しての行動だった。 意地っ張りなアンナがここまで他人を気遣うのは陸だからか。アンナの世界に入った最初の人だからか。
ハオは陸の力が欲しいけれど、一番の障害はアンナだろう。 障害があればあるほど手に入れるのが楽しくて楽しみでもあるけれど。
「葉ならあの洞窟を進んだ先にいる。とにかく今は早く《超・占事略決》を葉に届けた方がいい。僕の手伝いならいつだって構わないんだからね、アンナ」
「いつまでも寝言いってると――」
アンナが振り上げた右手はハオに届かず腕を掴まれ止められた。今まで止められた事がなかった為にたまおやまん太、ポンチにコンチは驚きを隠せない。
「いいね、やっぱり。ねえアンナ。陸は僕のものだ。陸はシャーマンキングの妻になるのがふさわしい」
「え、ええ!?」
「てめ、なに勝手な事言ってんだ!誰がお前ん所なんぞ行くかバーカ!!」
周りが騒ぐ中ハオとアンナの間に沈黙が訪れる。けれどもそれは一瞬の間でアンナが左手を振りかぶったと同時に去っていった。 ぱぁん、と鋭く乾いた音が響いた。
「あたしにはまだ左があるのよ!!」
「幻の左……!」
すっかり油断してしまったハオはアンナのビンタを諸に受けてしまった。 ビンタの衝撃で尻餅をついたハオをアンナが睨みつける。
「あたしが認めたのは葉だけよ。あんたなんかに陸を任せられるわけないでしょ。さあ、行くわよ。陸!たまお!まん太!ちんたらしてんじゃないわよ!」
ざかざかと去っていくアンナ達を微笑みを崩さず見送る。 陸が去り際にハオを振り返って顔をしかめて舌を出してきた。 随分嫌われてしまったな、と思いながらまた笑う。
「この僕にビンタくれるとは母さん以来だよ、オパチョ。それに僕に血を流させるのはきっと陸くらいだね」
着ていたマントを捲れば右腕が微かに切れて血が滲んでいた。
「……ちょっぴり痛かったかな……」
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