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陸達はまん太の家の飛行機でアメリカへ入国し、ヘリにてS.F.の会場へ向かった。 目的地が近づくにつれたまおとまん太はそわそわして、アンナと陸だけが平然と外の景色を眺めている。陸は内心興奮して騒いでいるのだがその興奮が外面に出ないだけである。
5年という長い眠りから覚めてすぐ、アメリカ行きの支度をして飛行機に何時間と乗せられ次はヘリとくれば流石に陸も疲れてしまい騒ぐ程の元気は無い。別に機内で休んでもよかったのだが漸く見れた自然の景色を堪能したいという事と、葉に会いたいという思いから目が冴えて眠れなかった。 その事に関して陸は先程アンナに怒られたばかりだ。
目的地に着いたと田村崎に伝えられ、ヘリから降りたまん太が興奮して声を上げた。
「ここがメサ・ヴェルデデ!ここまでくれば葉くんに……」
続いて降りてきたのはサングラスをかけたアンナだった。後ろでたまおが顔を赤らめている。
「会えるのね!」
「お、岩ばっか」
ヘリから降りた陸が座り込んで砂を触ったあと地面に耳をつけ、大地の鳴動を聞く。それを見たたまおが焦って陸を止めた。
「陸様、汚れてしまいます!」
「へーき」
「でも、でも」
わたわたするたまおを後目に地面に耳をあてて起き上がろうとしない陸の頭をアンナが叩いた。
「……いてぇ」
「当たり前でしょ。どこにトム・クルーズがいるかわかんないのにそんなカッコしてんじゃないの」
「いねえーよ!」
すぐさまツッコんだまん太の左頬を思い切り叩いた。叩かれたまん太は白目をむいて倒れ込む。 田村崎が心配そうにまん太に駆け寄った。
「ジョークよ(アメリカン)。さあいつまで寝てるの、まん太。あたし達は葉にあの《超・占事略決》を渡すためにアメリカへ来たのだから急がないとね」
アンナが辺りを見渡せば、岩と木とレンガ造りの建物なのだが人気は無い。 葉に早く渡さなければならないというのもあるが、陸を休ませたいというのが大きい。 けれども陸は葉に会うまで休まないだろうから、やはりまずは葉を探さなくてはならない。 「にしても、広いわね」
「幹久様の情報によればどこかに秘密の入り口があるらしいですけど」
『ケッ、あのオヤジ年中ふらふらしてるからな』
『本当にあてになるのかねー』
「なんなら僕が案内してやろうか」
風の吹く渇いた音が流れる中、聞き覚えのない声が入り込んできた。 ポンチとコンチはすぐさま岩場に隠れ背後の男を見やる。突然の乱入者に空気が張りつめる中、陸だけがこれでもかという程眉間に皺を寄せ男を睨みつけていた。 岩場に隠れたまん太が冷や汗を流して男を見ていたら男もまん太に気づき、一言。
「ちっちぇえな」
「なんなんだぁ――!!名を名乗れ!」
バカにされたように感じてまん太が声を荒げる。 人の気にしている事をさらりと言われては怒らざるおえない。
「ハオさま」
今まで口を開かなかったアフロヘアの子供が瞳いっぱいに涙を滲ませてハオと呼ぶ男を見上げた。 何故泣きそうなのか合点がいったハオは微笑んで子供を見る。
「ああ……!すまんすまん。気にするな、オパチョの方がちっちぇえよ」
「オパチョ、ちっちぇえ!」
ハオとオパチョの周りだけゆるやかな雰囲気が流れているがまん太やたまおはそれ所ではない。 何より最悪の敵に出会ってしまったのではないか、という不安が頭を支配する。
「ふうん。意外と早く現れたのね、麻倉葉王。《超・占事略決》あんたそんなに葉に渡されたら困るわけ?」
「アンナ様……!それは……!」
「っていうかやっぱりあいつがハオなの!?」
「なァんだ。もうそこまで手が回ってるとは流石だね、麻倉も。という事は君がそうなんだね。会いたかったよ、アンナ。僕の式神を倒した稀有な娘。それに陸も。おはよう、我等が《歌姫》。気分はどう?」
「ふざけんなテメエここで会ったが百年目――」
「陸は下がってなさい。その仕返しをしたいとでも?」
アンナはハオに掴みかかろうとした陸の首根っこを引いて口を塞いだ。
「僕がそんなちっちぇえ男に見えるかい?僕はむしろ君を強く尊敬するし、《超・占事略決》だって早く葉に届けて欲しいと願ってるのさ」
「どういう事よ、それ」
「正直言って、今の葉はあまりに弱い。このままではこの先ある戦いに生き抜いていく事は到底無理。けど《超・占事略決》さえマスターすれば今とは比べものにならない力を身につける事が出来る。葉には、早く立派になって僕の手伝いをしてもらわないといけないからね」
微笑みを絶やさず、歌うように話すハオに陸の眉間の皺は深くなっていくばかり。 後ろからアンナに口と体を押さえられている為にハオに文句を言ってやる事が出来ないのが歯がゆくて仕方がない。
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