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ファウストが葉の率いるチームに入った時に、医者であるファウストは陸の検診をした。 陸自身、感覚的に身体を動かしていただけなのだがどうやら違ったらしい。 陸の持つ言霊の力が陸の身体に作用して動かしているようだった。この力があるから陸は立って歩く事が出来る。力が消えたり弱まったりすれば陸は立つ事も出来ないだろう。 ただ、外部からの力で無理矢理身体を動かしているようなものだから、自身では疲れを察知する事が難しかった。 定期的にファウストが陸を検診して、陸の身体に必要以上の負担がかかっていないか調べる事になっている。
「この修行が終わったラ、また診せてもらいマスね」
「ああ、頼むよ……お!?」
「陸、あんまり歩いたら駄目だろ!」
ファウストと話す陸を葉が後ろから抱き上げた。 驚いて声を上げる陸を黙殺して、葉は陸が先程まで座っていた縁側に下ろして隣に座り、満足そうに頷いた。陸と楽しそうに話していたファウストへの嫉妬なのだが、子供っぽい自分を知られたくなくて葉は適当に嘘をつく。
「……何がおかしいんよ」
「いんや、別に?」
くつくつと笑う陸には当然葉の内実など理解していたようで。 葉が陸をからかって顔を赤らめさせる事が出来る時は多々あるが、同時に陸も葉の心を見透かしてからかう事だって同じだけあるのだ。 見てきたもの、知ったもの、聞いたものなど到底叶わない程陸は沢山の事を識っている。まだまだ葉が陸に勝てるのは遠い日のようだ。
「で、手応えはあるのか?」
「ん?」
「修行の成果だよ。せーいーかー!好敵手の……あー、道蓮だったか?勝てそう?」
「おう!オイラは負けねえ。それより、陸こそ大丈夫なんか?」
「うん?」
「蓮の事だ。あんまり雰囲気良くねえだろ」
うぅん、と唸って陸は困ったように笑う。
蓮とはかなり悪い雰囲気だ。勿論陸が蓮を嫌っていたり目の敵にしている訳ではない。むしろ嫌って目の敵にしているのは蓮の方だろう。 パッチの選手村で葉と再会した後に、蓮が葉を訪ねてきた時があった。 その時に陸は自己紹介をしたのだが、強く睨まれて名を名乗らずに去ってしまったのだ。結局蓮の名は葉から聞いてその話は終わった。しかしそれからというもの蓮は陸を視界に入れれば苛立たしげに舌打ちをして陸から離れていってしまう。 その後ホロホロとチョコラブが慌てたように蓮を追っていくため、あちらのチームとは自然と疎遠になってしまった。 陸自身、悪意に好意を返す程甘い人間ではないし、わざわざ蓮の良いように接してやるほど好人物ではない。蓮に嫌われたからと言って陸の何かが変わるはずも無し、蓮の事は放っておいている。 それに、蓮が陸の嫌う理由などおおよその見当はついているのだ。
「ま、大丈夫だろ。あれはあいつの問題だ。私が干渉する事じゃねえ」
「なんだ、蓮があんな態度の理由わかってたんか?」
「大体な。多分こんな感じなんだろうなー、っていうくらいのもんだけど。あれだ、私が出たら逆効果だよ。時が解決してくれるって」
「ふぅん、陸が良いなら良いけどよ……」
「心配すんな、大丈夫だよ」
快活に笑う陸に葉も安心してそうか、と返した。 自分も自然と笑みが零れて二人で笑い合っていれば、よく知った気配が背後に現れた。本能的に危険を察知して逃げた方がいいと訴えるが、逃げたら本当に閻魔に会いに行く事になるだろう。 恐る恐る葉が後ろを振り向けば、鬼の形相をしたアンナが仁王立ちして葉を見下ろし睨んでいた。
「ア、アンナ……!」
「あんた、一体いつまで休憩してるつもり?しかもあたしの陸といちゃついて!!」
アンナのじゃないだろ、と言いたいが言えない。 未来の女将は強く手を叩き声を大にして言う。
「さっさと立ちなさいよだらしがないわね!休憩は終わりよ!!わかったなら直ぐにO.Sを纏いなさい!!」
葉達三人の断末魔はまだまだ止む事はないだろう。
*****
某日。 S.Fのトーナメント対戦表が張り出された。全チーム63人。その内ベスト4に入った4チーム12人だけが次の試合に進め、最後の勝者がシャーマンキングになれる。
葉達のチームは《ふんばり温泉チーム》。
アンナが将来作る旅館の宣伝としてこの名が上げられたが、やはり周りのチームと比べると浮いて見える。それでも未来の女将に口出し出来る人間など《歌姫》ぐらいだろう。
「ほんとにわかってんの、あんた。要するにこのトーナメントでベスト4に勝ち残るには蓮のチームと戦わなくちゃいけないのよ。あたしはあんたに伝える事は全て伝えたわ。あとはあんたの覚悟次第」
トーナメント対戦表を見下ろすようにしてアンナが葉に語り掛ける。 アンナは丈の短い浴衣、葉は《ふんばり温泉》と書かれ、背に麻倉の家門を背負った羽織りに着流しを着ている。 陸はいつも通りのラフな格好で、どことなく緊張感が無かった。
「うーん、まさかいきなりこんな事になるとはなあ。ま、いんじゃねえの?それはあいつも望む所だろ」
例え相手が誰であろうと、葉は立ち止まったりしない。 自ら決めて、動いた結果がこれなのだ。シャーマンキングになってやりたい事は沢山ある。古い友人に会いたいし、片割れも救ってやりたい。何より愛おしい人が傷つかない世界にしたい。戻る気は無い。逃げる気など以ての外。
「誰が相手でも、オイラは負けん」
勝って、凱歌を上げよう。
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