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1995年出雲。

いつもより早く学校が終わり帰宅した葉がリビングに入ると葉明が式神と共に新聞を読んでいた。
孫の帰宅に気付いた葉明が顔を上げる。

「おお、葉か。早かったな。また今日も学校をサボったのか」

「あはは違うよじいちゃん」

葉は背負っていたランドセルを放って椅子に座る。

「今日からオイラ冬休みなんよ」

「ほう、冬休み」

「ああーハラへったあー。じいちゃんなんか食いもんある?」

「ならば葉よ」

「なんだ?通信簿なら見ねえほうがいいぞ」

「ふん、そんなものどうだっていいわい」

葉に聞かれたことを答えず話を進める葉明に葉は全く気にせず話を聞いた。
通信簿のことかと思ったがどうやら違うようでどうでもいいと一蹴された。
安心したような、寂しいような。

「それより今朝木乃から連絡があってな」

「青森のばあちゃんから?」

久しく会っていない祖母からの連絡。
何かあったんだろうかと思いながら葉明の話を聞く。そんな葉に葉明の式神が煎餅を差し出しているが重いのか手が震えている。

「うむ。葉よ。お前に会ってもらいたい娘がいる。学校が無いならちょうどいい。明日にでも会いに行ってやれ」

「んん……!?」


*****


『ギャ――ッハッハッハッハッハ――ッオイ良かったな葉!』

『ぜってーソイツはてめーのヨメになる女じゃねえか!?うらやましいぞコノォ!!』

麻倉に仕える精霊である狐のコンチに狸のポンチ。一応麻倉の精霊であるだけにそれ相応の力は持っているのだが、とにかく下劣で主人を度々困らせている。
彼等は葉がされた話を聞いて《会って欲しい娘》は《葉のヨメ》と決めつけぎゃいぎゃい騒ぐ。
二匹が葉に絡んで不躾に背を叩いた。

「いや、そうと決まった訳じゃ……それにオイラには陸が――」

『あ!?』

『なんだコラ5年近く片思いのクセして何言ってんだ!!』

5年近く片思い、の言葉に葉は落ち込む。
頑張って陸を振り向かせようとするがちっとも上手くいっていないのが葉の現状だった。何気ない言葉に顔を赤くする辺り全くの脈無し、というわけでは無さそうなのだが。

調子に乗って更に強く葉に絡むポンチとコンチ。さながらそれは深夜に都会を練り歩く酔っ払いのようだ。
その時、二匹を止めようと声を荒げる者が現れる。

「おやめなさい二匹共!!ヨメだと決まってないでしょう……それにあなたたちもこの家の持霊なら……!少しは身分をわきまえたらどうなんですか!」

声の主は麻倉で修行している玉村たまおだった。
お盆を抱えて必死に言うもポンチとコンチの態度は変わらない。

『ああ――ッこいつの嫁がどんなか気になるぜ――っ!!』

『てめえハートウォーミンな超カワイコちゃんだったらブッ殺すからなオラァ!!!』

ポンチとコンチは葉の足を蹴ってたまおの言うことなど気にせずやりたい放題。
尚も怒りを見せない麻倉の跡取りは懐が深いのかただ単に無頓着なのか。

「ああ気にするな、たまお。こいつら絶対言うこときかんから」

「ああすみませんすみません。私はせつないです」

たまおが土下座をして謝り続けポンチとコンチは暴れるのをやめない。

この二匹はいつもそうだ。

主であるたまおをからかいこそすれ、敬いもしない。
シャーマンとして未熟者なのだから仕方ないと言えば仕方ないが、大切な人に迷惑をかけてしまっている事がたまおの体を小さくさせた。

「しかし前々から聞いてはいたものの参ったよなあ。いきなり会いに行けだなんて……」

『案ずるより産むが易し。心配なんぞいくらしても足りぬもの。故に会いに行くのである。いざ霊場恐山。まだ見ぬ娘の元へと』

知らない声がした。その声は未だ煩いこの部屋でも不思議とよく通る。
はっと葉とたまおが声のした方を見てみると着物を着たネコが煙管をくわえて本を読んでいた。
葉とたまおが驚く。

「うわあ知らないネコがいる!」

「霊です葉様!それもただの動物霊なんかじゃない」

ネコが読んでいた本を閉じて立ち上がり、軽い会釈。

『や、失礼。小生ワケあって訪ねてきたのだが騒がしいのが苦手でしてな。葉さん。少しばかり話がしたい。まずはそこの五月蝿いのをかたづけてもらえんか。小生、かような低俗霊と居ると頭が痛くなるのです』

『なんだとコラァ!!』

ネコの言葉に今まで好き勝手暴れていたポンチとコンチが反応する。
其処らのチンピラのように喧嘩を売り始めた。

『てめえどっから来たか知らねえがよ』

『オレらァ死んで400年。とうの昔に精霊に進化したおきつねさまとおたぬきさまよ』

『ちったァクチが聞けるようだがたかがクソネコ霊の分際で』

『先パイに対するクチの聞き方が出来てねえんじゃねえかコラァ』

偉そうに凄んでネコに絡む。ネコの方は怯むことなく飄々としていた。
ただ、ポンチとコンチの格好が――何も身に付けていない姿が――酷く見苦しい。

『その前に何か穿け』

『っせえなムレるんだよ!!』

『やれやれ弱い者ほど牙をむくか。小生争いは好まんが早々に私怨を断つには力を示すのもまたやむなし。――やるか?』

『上等だァ!』

一瞬。

ネコとポンチ、コンチの喧嘩は一瞬で終わり賞杯はネコに上がった。
呆気なく敗れた二匹はネコの煙管に弾かれてそのまま宙を舞い倒れ伏す。

『すまんな。申し遅れたが小生この麻倉家に仕える事約1000年。この度葉さんの旅のお供に世界の股旅から戻ってまいった。ねこまたのマタムネと申す。好きなものはマタタビ。以後お見知りおきを』










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