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旅館から出て、家族への土産物を選ぶ為に土産屋《ぐまくら》へ来た葉は顎に手をあて思案する。

「じいちゃんとかあちゃんとたまおの土産、何がいいのかさっぱりわからん」

恐山が描かれた暖簾やこけし、色とりどりの茶碗に様々なキーホルダー。他の一角にはお菓子。土産屋ぐまくらには所狭しと沢山の工芸品が並んでいた。

「土産選びは慎重にいかねえと。特にじいちゃんは土産にうるさいからな。さてどうしたものかね」

母である茎子やたまおは何を買って行っても喜んでもらえるだろうが葉明に適当な物を買って行ったら雷が落ちる。
色々な土産を見てまわっていたら耳かきを見つけた。裸の女性を模した耳かきで実家にいる狸と狐が如何にも喜びそうなものだ。

「(うへへ、これならポンチとコンチもよろこぶかもな。あいつらおっちゃんだもんな)」

「何考えてんのよいやらしい」

横から聞き覚えのある声がした。
とにかく何やら誤解されている気がして否定する。そうして声の主を見ると昨日会った無愛想な少女、アンナだった。
初対面で強烈な印象を持ち、若干の恐怖を感じていたため反射的にアンナから距離を取ったが、ふと葉の中に疑問が浮かんだ。

「ちょっと待て、オイラそんなの一言も言ってねえぞ!」

「だから何考えてるのって言ったのよ。何よ、チンポとチンコって」

驚いて口をつぐんでいるとアンナが虚空を睨み付けていた。眉間にシワが寄り、不快そうに呟いている。

「……あんたの、家の持霊なのね……でもなんて下品なカオ……特に狸の方。……殴りたい……!」

「お前……なんでそれを……。いや、それだけじゃねえ。オイラの事だってそうだ。カオも知らねえのに名前を呼んで、お前ん家にいても顔色一つ変えないで。それに、鬼も……!」

考えたくはないが、どうしても鬼とアンナの瞳が被って見えるのだ。アンナは憎しみや嫉妬を込めた瞳で葉を見る。
陸はアンナがいい子だと言っていた。けれど、どうしても考えずにはいられない。

「鬼は、お前がけしかけたのか?」

アンナの肩を掴んで問いかけるとアンナは顔を強ばらせた。直後にパァンと乾いた音がぐまくらに響き葉は体が浮く程の力で叩かれていた。
あの細腕によくもそんな力があるものだと呑気に考える。

「気安く話しかけないでって言ったでしょ」

「っいってえな!何すんだよ!お前自分から用があって話しかけて来たんじゃないのかよ!」

倒れ込んだままアンナに食いつくと、彼女の瞳にはうっすら涙が滲んでいた。

「あたしに近づくと、あんたは不幸になる。……あたしはあんたに別れを告げに来た。幸せになりたいのなら今すぐ出雲へ逃げ帰れ」

木乃達の意図など当の昔に心を読んで知っていた。陸も木乃達と同じように考えていることも。

アンナは思う。
自分の世界に陸以外いらないと。

アンナは願う。
自分の唯一を奪わないでと。

アンナの寂しそうな小さな背中が去っていく。葉に背を向けたまま何とか聞こえるくらいの声量で呟いた。

「さよなら……来てくれて、ありがと」

出雲に来てからわからない事ばかりだ。何よりもアンナが一番わからない。
葉明達がなんの意図を持ってアンナに会わせたのかわからないが、葉はアンナがこのままではいけないという事だけわかっていた。
去っていくアンナに、問い掛ける。

「……あたしは――」

アンナが呟くと同時にアンナを中心にして無数の人魂が集まり始めた。
それらが集まり固まって一つの形を作る。
昨日の鬼とどことなく似た鬼は比べ物にならない程の大きさに形成され、それは葉を睨み付ける。

「……鬼……」

「……だから、早く逃げてって言ったのに」

また、疑問が増える。
何一つ解消されず葉の中に降り積もる。

怖い。

鬼が葉を捕まえようと手を伸ばし、葉は咄嗟にしゃがんでその手を避けた。避けられた手は止まる事無くぐまくらへ突っ込んでいき、入り口のガラスを割った。

「きっ、来たあああ!!」

直ぐ様横へ走りだしたが、鬼の方が速く追い付かれ鋭い爪を持った巨大な手が葉を襲う。ぐまくらの前で防戦一方を続けているとアンナが話し出す。

「あたしは……いつもこうだ。外に出れば鬼が出て、必ず悪さをして消える。だからあたしは部屋がいいのに」

憎しみに囚われて鬼を生み出し破壊し続ける。
憎みたくない。壊したくない。
けれど、思い通りにいかない。

「じゃあ鬼はお前の仕業じゃなかったんか!」

思わずアンナに気を取られてしまって鬼の接近に気づかなかった。飛び退いてぐまくらの中へ入るとまた違うガラスが割れて破片が葉の顔を切った。

「くそっ!じゃあ何だってんだよ、この鬼は!」

「鬼は貴様じゃ、クソガキが」

嗄れた男性の声がして振り返ると股引きに白いシャツ、腹巻きをつけて陸軍帽を被った老人が真剣片手に葉を睨み付けていた。











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