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旅館の前で獅子舞が踊っているのを見ながら木乃は葉明と電話で話す。
「ああ。やはりマタムネは鬼を倒して成仏したよ。大方予測していた事とはいえ寂しいものだな。だが、予測以上の結末もある。もう嫁を探す必要はなくなったよ、葉明」
*****
下北駅にて帰って行く葉を見送る木乃はため息をつく。リュックをしょいなおした葉が木乃に笑いかけた。
「じゃあばあちゃん、送ってくれてありがとな。あとはオイラ一人で帰れる」
「やれやれ、ケガの方も治りきっておらんというのに。まだ冬休みはあるんだろうが」
「んー、のんびりしてえのは山々なんだけどなー。でもオイラがいるとアンナが困るだろ。なんせ一週間一度も部屋から出てこんかったもんな」
大鬼が消えた後、陸はそのまま倒れて眠り込んでしまった。医者などによれば、身体に異常は無く、本当に眠っているだけだという。 アンナはそんな陸を連れて部屋に籠もってしまったのだ。
「は、わかっとるではないか。最も顔を出さんのはいつもの事だがね」
「ハハ、言えてらあ」
「あの娘は、その感受性が並外れて強いだけに誰よりも神経質で臆病だ。だがそれも全ては本当の恐怖を知っておる故。いつかそれら全てを乗り越えた時、あの娘は何事にも動じぬ真の強さを得るだろう。それがいつになるかはわからんが、お前と再び会う頃にはまた変わっておるかも知れん。ナンギな娘だが、その時はまた頼んだぞ葉」
「ああ。じゃあ電車来たから」
乗り込もうとすれば木乃に引き止められ独楽が描かれたぽち袋を差し出した。今の時期的にはそれの中身はお金なのだろうが、木乃が葉にお年玉を渡すだろうか。 はて、と思案するもすぐに電車が出てしまう。 車内で見ようとぽち袋をポケットに押し込み、葉は電車に乗って青森を去って行った。
*****
電車に乗って席につきぽち袋を眺める。
「いったいなんなんだ?」
「開けてみれば?」
「ああ、そうするか」
隣から聞こえてきた言葉に何気なく返していたが、違和感。もう聞き慣れた声だったがこんな所にいるわけがない。
だって彼女は外が嫌いなのだから。
それでも声がした方を見てみるといつもの着物姿ではなく、ワンピースに上着を着て巾着を持ったアンナが仏頂面で立っていた。 思わず驚いて声を上げれば頬を叩かれ止められる。
「静かにして。車内で大声出したら迷惑でしょ」
「っていうか、なんでお前!いやそれよかそのカッコは!?」
「乗り越えたの。あんたが鬼を倒したから。今までどうしようもないと思ってた鬼をあんたが倒したから、だからあたしもなんとかなるって思う事にしたのよ。あたしはもう二度とあんな惨めな思いしたくない。この能力があろうがなかろうが関係ない。強くありたい」
「そ、そうか。そいつは良かったな」
「だから礼を言いに来たの。――ありがと」
「おう」
少しの沈黙の後、アンナが不本意そうに話し出した。 それは葉が一番気になっていた事でとても心配していた陸について。
「帰ってから、完全に眠りにつく前に陸の中に入れた。今までずっと身体と魂が離れていた。それを定着させる為に陸は眠りについた。陸は数年で終わるだろうって言ってたし、陸が眠っている間は精神も眠っているから精神世界での対話も出来ないそうよ」
「……そうか」
「……あたし、次の駅で降りるから」
その後はどちらとも口を開かず無言のまま次の駅へと走っていく。 きっとこの事を伝えるのにかなり抵抗があったのだと思う。 まだ葉に対する嫉妬は消えないし、何より陸が葉を好きだとはっきり言ったのだから尚更だ。
「(それにしても、やっと陸と両思いになれたんよ。それにオイラの嫁になるなんて、オイラは幸せだ)」
ほわほわと色惚けしているとアンナが葉を鋭く睨みつけていた。スッと手を振り上げられ先程叩かれた頬と逆の頬を叩かれた。
「あたしは仕方ないからあんたを認めただけよ。言っとくけど、あんたが陸を傷付けたりしたらあたしが陸を貰ってあたしが陸を幸せにするから」
ちょうど着いた駅でアンナは言うだけ言って降りていった。
結局両頬を叩かれて痛みからか、別れの寂しさからかわからないが涙を流して葉はアンナと別れた。
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