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『いやほれ、俺様見ての通りパワーアップ!するためによ、あの娘を言葉責めしてさんざ霊を集めさせた訳だが、それがすげえのなんのって。いくら呼んでもいくら呼んでもちっとも巫力が尽きやしねえ。しまいにゃ俺様の方がオナカいっぱいでどっかにフラフラ歩いていっちまったよ』
とても愉快そうに笑う大鬼に怒りが沸く。 陸を傷つけただけじゃなくアンナまで傷つけるとは、流石の葉も怒りを抑える事が出来そうになかった。
「貴様ァ……」
「一つ積んでは父のため。二つ積んでは母のため」
「!」
「アンナ!」
「うるさい!おのれ憎らしい。どいつもこいつも寄ってたかって何様のつもりだ」
憎しみの念を瞳いっぱいに宿しながら葉とマタムネを睨みつけ拒絶する。
「アンナ……」
『どうやら心をやられたようですね。しかしあれだけ巫力を奪われて意識を失わぬとは不幸中の幸いと言うべきか−』
「何が不幸中の幸いか!!このねこまたが!!」
足元にあった石を拾い上げ力いっぱいマタムネに投げつけた。しかしそれは煙管に弾かれ傷つける事はなかった。 アンナが涙を流し叫ぶ。
「お前らに!あたしの苦しみがわかってなでたまるか!捨てられる苦しみが!憎み憎まれる苦しみが!!」
あの時と同じ、かつて同様に苦しんだ葉王とそれを救う事ができなかったマタムネ。 けれど今は違う。鬼を倒し、アンナを救う術を知るマタムネと葉がいる。 今度は救える。救ってみせる。
「いい加減にしろよアンナ!そんなカッコじゃ風邪ひくし陸だって心配してる!」
「ええい、黙れ黙れ黙れ黙れ!お前らなど皆死んでしまえばいいんだ!!」
憎しみを込めて叫び続ける。 叫ぶ度に悲しいと叫ぶアンナが見えた気がした。それを楽しそうに笑って傍観する大鬼。
「お前もいつまでヘラヘラ傍観している大鬼!お前もあたしの生んだ霊ならば!さっさと奴らを殺してしまえ!!」
大鬼がニヤリと笑い本堂から飛び降り葉とマタムネに襲いかかる。 マタムネは煙管を構え、葉を促す。
『ではゆきますよ、葉さん』
「……わかった」
下を向いていた葉が意を決したように顔を上げ涙を流す。手を構え、叫ぶ。
「憑依合体!さらばマタムネ!!」
『憑依合体!?ななななんだこれはまさか!!』
強い光が辺りを包み現れたのは自分の身体より何十倍という大きさの刀を持った葉だった。それは前にマタムネが持っていた刀。 鬼の、力。
『……バカな。しかもその刀、ねこまたの……』
「《鬼殺し》そうマタムネは呼んでいた」
『……だからどうした!!それがパワーアップ!した俺様に敵うのかよ!?』
所詮はあのねこまたの力なのだ。パワーアップする前は互角、今は更に力をつけた大鬼に敵うわけがないのだ。
『オラオラオラそのネコちゃんはどこに隠れたんだオラァ─―っ!!』
叫んで拳を突き出せば、それは葉に当たる事は無く一瞬で切り落とされた。
「マタムネなら、ここにいる」
『あ?』
「そして今はもう二度と元の姿には戻れない。マタムネは、お前を倒す為にオイラと一つになったんだ!大鬼!!」
巨大な刀を振りかぶり大鬼へと向かってゆく葉をアンナは静かに見ていた。 アンナはハッと思い立ち、視線を巡らせれば本堂の前で倒れていた陸が消えていた。 自分の事ばかりですっかり忘れていたアンナは急に陸が心配になり辺りを見渡せばちょうど陸が葉と大鬼の間に手で顔を覆い立っている。
「あー……、大口叩いたクセにすぐ倒されるとか情けなさすぎて涙出そう」
「……陸、なんで」
「ああ、おはよ。葉とアンナに言いたい事があったから起きてきた」
とにかく状況が把握出来ない。 大鬼は完全に動きを停止していてピクリとも動かない。途端に静かになった所で陸は雪を踏みしめアンナの所へと向かう。 陸の動きが夢で会うときよりかなり遅いのが気になった。 陸がアンナの前に来て静かにしゃがみこみ頭を撫でるといつかの出来事を思い出した。
「なんで私がアンナを嫌わなきゃならないんだ?」
「だって、あたしは汚くて――」
「汚い人間なんかそこら中にはいて捨てる程いる。アンナは私に綺麗になる努力をすると言った。アンナがそうやって努力している限り私はアンナが好きだよ」
ゆっくりとアンナの心に浸透していく陸の言葉に涙が流れる。
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