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アンナの心は常に不安定だ。その心を大鬼は掻き乱す。アンナの心も痛め付けて傷つけて負の感情を呼び起こさせる。
大鬼はアンナから生まれたのだ。何を言えばアンナが傷つきのかわかりきっている。

「なんの事だ、あたしにはお前など……」

『オーノー、つれねえ事言わんといて下さいよ。俺様はお前から生まれたんですよ?ママ。そうさ、俺はお前の来たねえ心そのもの。見ろよこの醜い身体を。ひでえもんだ。うらみねたみそねみひがみ。人間の欲の塊』

「……やめろ」

『かわいこぶってんじゃねえよ。どうせもう理解したんだろ?ならとっとと諦めろ。所詮人間誰もが心に鬼を持つのさ。お前は汚い。陸の傍にいる資格なんてねえんだよ。陸が汚いお前なんかを嫌わないわけねえだろ?』

突きつけられる言葉の刃がアンナの心に突き刺さる。
やはり駄目なのか。汚い自分は受け入れて貰えないのか。

「……くそ、あいつ一体どういうつもりなんだ!陸がアンナを嫌いになるわけねえだろうが!」

『挑発ですよ。大鬼が体力を回復するには多くの魂が要る。その為にはまたあの娘の感情を逆撫ですれば、また霊が集まる』

アンナを中心に人魂が集まる。魂をひとつ咀嚼して大鬼はにやりと笑う。


『まだ、足りねえな。これじゃァ全ッ然足りねえンだよォ――っ!!』

大鬼はマタムネと葉に背を向けて走り出す。

「こいつ、またっ!!」

『恐山か!』

「恐山!?」

『恐山は最も霊が集まる場所!奴は恐山へ行き残りの霊を全て喰らい尽くすつもりなのです!だがそれだけはまずい!あの雪山で娘の巫力が底をつく事は死を意味する!!』

凄い速さで葉達から遠ざかっていく大鬼を見て歯を食い縛る。
葉が最も愛する陸と約束をしたのだ。滅多に何かを望んだりしない陸との大切な大切な約束をした。
大鬼が去っていった方へ走り出した葉にマタムネは焦って止める。

『お待ちなさい葉さん!今の恐山は雪の為に閉山中です!とても人の足が踏み込める場所ではない!ここは小生が行きますから――』

「ますからなんだ!!消えられたら嫌だ!だからマタムネ、今はお前が休んでろ!」

走り続けるが雪の深みに足を取られ転ぶ。

悔しくて仕方がない。

大丈夫だと、なんとかなると言ったのは葉なのに結局鬼が出てアンナを傷つけた上に拐われて命の危険に合わせてしまった。

「何が起きてるかは良くわからんがこうなったのは間違いなくオイラのせいだ。それにアンナと陸と約束したんよ。アンナはオイラがシャーマンキングになって助けてやるって。陸にアンナを頼むって言われたんよ。だから、絶対アンナは死なせない」

『……しかし』

「せまいニッポン」

「!」

「そんなに急いでどこへ行く、少年」

振り返って見た先に土産屋を営んでいたぐまくらが小さな男の子を連れて立っていた。昼間の寒そうな恰好ではなく今は黒いコートを着ていた。

「じいさん、昼間の……いや、オイラはその……」

「見たところ何かお困りのようだが。孫を連れての初詣、ここで出くわすのも何かの縁。ファファリの礼じゃ。元陸軍大将ぐーちゃんの名にかけ力を貸そう」


*****


霊場、恐山の美しい雪景色が広がる中ひとつの影が降り立つ。
雪山では命知らずというような薄着の少女でピクリとも動かずただそこに立っていた。何かを思い立ったのか歩き出そうと足を踏み出したががくんと力が抜けてその場に座り込んでしまった。
少女は苦笑する。

「思いの外私の身体はボロボロだったみたいだな……」

仕方ないと言えば、仕方ないのだけれど。
両足と右手の魂が欠けているし右目も見えていない。左手を動かして正常に動くか確認し右手を動かすと持ち上げるはするが握力が殆ど無いようだ。足もあまりいい塩梅とは言えない。立ち上がって歩けはするが、そう長くは無理だろう。
陸はゆっくりと立ち上がり足を進めると右側にあった木に気付かず頭をぶつけてしまいその場に座り込んでしまった。

「……いってぇ……見えなかった」

ぶつかった木を恨めしそうに見てため息をつく。
再度立ち上がり足を進めて思う。どうやらこの感覚に慣れるのはかなり時間がかかりそうだ。

「……なあ、私をアンナの所に連れてってくんない?」

そう虚空に問いかけるとざあ、と風が陸の頬を撫で彼女の身体を持ち上げる。
陸の耳に声がいくつも響いた。

『もちろんだとも』
『歌姫が望むならなんとでも』
『私たちの、愛しい歌姫が望むなら』
『あの悲しい娘の元へ』

「……うん、ありがとう」

向かう先は人の心が読める少女の元。
自分は陸に嫌われると嘆いていたことを彼らに聞いた。これはひとつ怒ってやらなければ。

「私がアンナを嫌う筈ねえだろうが」










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