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ゆらりと立っていた大鬼は即座に走り込み大きな人差し指でマタムネの腹を突いた。内蔵が損傷し血を吐きながらも冷静に大鬼の力量を見定める。
『(不意打ち、否。鬼が来ることはわかっていた。しかしその速度たるやまさに矢の如し。尚この力牛100頭の如し)』
初撃とは逆の手で、今度は拳そのものを打ち込まれたマタムネは吹き飛ばされるが直ぐに体制を立て直し大鬼へ向かう。 マタムネが攻撃を仕掛ける前に再度大鬼の拳が打ち込まれ横の林へと飛ばされた。
『(フム、手強い)』
「マタムネ!!」
あの強いマタムネが大鬼に触れられず飛ばされた。恐らくはあの大鬼は強くマタムネは手こずる。このままではマタムネが危ない。 葉は未だ苦しむアンナに問い掛ける。
「なあ!お前、この前みたくなんとか消す事は出来ないんか!?」
「く……!それが出来るのなら疾うにやっている。なれどあたしには何故鬼が消えたのかが未だわからない。あの時はお前を助けようとして……今だってそうしたいとさ思っている。なのにここは人の思念が止めどない!!」
林の隙間から寺の本堂が見えている。 ここに人はいないこそすれ本堂の近くなら参拝者や屋台の客などおおくの人間が集まっているだろう。 この鬼はマタムネに匹敵する程の速さを有している為逃げる事は叶わない――ましてやまともに動けないアンナも一緒だ――けれど、この鬼はアンナが作り出している。
「ならもっと!楽しい事を考えるんだ!アンナ!鬼はお前が苛々するから生まれる!だったらどんなにやな思いが入って来ても、それに負けないくらい楽しい事を考えればいい!!」
「……楽しい事……陸といる事……っうあああ!」
陸といる事を考えても周りの思念が強すぎて妨害され考えられない。
「他に手はないんか!?じゃなきゃマタムネが……!」
『小生が何か?』
「うわあ!」
飛ばされたマタムネが雪の中から立ち上がった。頭に一杯雪を乗せている。
『や、これは驚かせて失礼。小生ついうっかりしていたものでしてからに』
「だ、大丈夫なんか?」
『もちろんですとも』
頭に乗った雪を首を降って落とし平然と答えたがただの強がりだ。体に走った鋭い痛みに眉を寄せる。
『(ひいふうみい。その魂の数中鬼のおよそ10倍、1080――これでは小生の巫力はるか及ばず、ただ砂塵の如く吹き飛ばされるのみ。やむおえん。使うしかあるまい……!!)』
煙管を構え巫力を注ぎ込む。
超・占事略決 巫門御霊会
『(葉王様。このマタムネに与えたもうたその巫力。今ここで使いきるやも知れぬ事許したもう)』
陰陽師が京を鬼から守る為に鬼門に配置した鬼神。 霊に霊をぶつけるからその儀式の名を御霊会。故に彼らは御霊神と呼ばれた。 葉王に媒介を貰い葉王の巫力によって半永久的に御霊として生きるマタムネ。けれど葉王の巫力が続く限り。 葉王の為に御霊となり葉王を守り共にいるという遠い昔の約束が果たされる事は無かった。
刀で大鬼を斬りつけ、腕で防がれたかと思ったが大鬼の腕が斬れた。先程のように一方的な攻防ではなく互角に渡り合っているが大鬼にあまり傷がつかない。
「すげえ!マタムネの奴今度はまともにやりあってるぞ!」
「駄目よ」
「!?」
「あの猫の鬼と同じ力。戦えば戦う程減ってゆくのがわかる。このままでは、消える」
『(剋殺)』
「マタムネ――っ!!」
マタムネの巨大な刀が大鬼の左肩から脇腹まで裂いた。かろうじてまだ左腕はくっついているが殆ど切れて落ちそうだった。
『(入った。しかしやはり大鬼。この程度ではまるで滅びる気配が無い。とは言え別段問題もない。あとは残りの巫力・霊力を全て奴に注ぎ込めば、確実に滅!!)』
傷から少しずつ体を破壊されていく大鬼が叫ぶ。
『ッバアアアアアアア!!』
大鬼は咄嗟に右手で左腕を引きちぎりマタムネから逃れる。
『(馬鹿な、こやつ……!小生の巫力から逃れる為に敢えて!?この鬼、よもや知恵をつけているのか!?)』
身を翻し走り出す大鬼を急いで追いかける。
完全に大鬼を侮っていた。
鬼は本来破壊衝動しか存在しない筈だが、あの大鬼の目的は何なのだろうか。 そして大鬼の視線の先には葉とアンナがいた。大鬼は葉を蹴りつけアンナを掴む。
「!アンナ!!」
『おのれ大鬼そういう事か――っ!!』
『そうだよ、ねこまた』
「喋った!」
『くくく……いてえじゃねえかこの野郎。よくも俺様の腕をこんなにしやがって。てめえは、絶対、許さねえ!ぐちゃぐちゃにブッ潰してかまぼこにして喰ってやる』
『フン強気の割りには随分と息が上がっておる』
『てめえ程じゃねえさ。だが俺様はやると言った以上は徹底的にやる鬼だからな。その為にはまたこの娘の力が必要、なんだよなァ?』
掴んで捕らえたアンナにいやらしい笑みを向ける。
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