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シャーマンキングだなんて簡単に言ってのける葉にアンナは言葉を失った。
どうして、この男は。

「へへ、恥ずかしいななにやら。襖ごしで良かった。じゃあオイラはゆく年くる年見るから、お前も寝るんじゃねえぞ。……待ってるからな」

「うん……」

涙が溢れた。
ずっとアンナの世界には陸だけがいてこれから先、決して他人が入ってくる事は無くて誰も入れるつもりなんか無かった。
なのに、少しずつ、本当に少しずつ葉がアンナの世界に入って浸透していく。
憎まなくてもいいのだろうか。
妬まなくてもいいのだろうか。

「……陸はあたしを嫌いにならない……」

葉を好きになっても、葉とアンナに対する好きの意味合いが違っても。葉が陸の一番になっても。陸はアンナを嫌いにならない。
そんな事、陸の心を読んで知っていた。
葉ならば、ちゃんと陸を愛して幸せにしてくれるだろう。そんな事、葉の心を読んで知っていた。

けれどやっぱり葉に対する嫉妬の念は消えないから、簡単にはあげない。「まだ、陸は渡さないもの」


*****


寒さ対策に厚着をした葉とアンナが旅館の前で話しているのを二階から見ているのは木乃とマタムネ。
アンナが渋った様子を見せたが直ぐに葉と一緒に歩いていった。二人の間に多少の距離はあれど、これは大きな進歩だ。

『……行きましたね』

「信じられん……あの娘が他人と共に出かけようとは」

『葉さんは意外とお誘い上手』

「ではアンナが心を開きかけているというのか……これはもしかしたら――いや、やはりあの二人を行かせるわけにはゆかん」

アンナが心を開きかけているのはいいことだ。
けれど、今夜は大晦日。
今二人が向かっている所は危険だ。

「かの力、ただでさえ雑踏の中にあればアンナの心には人々の思念が入ってくる。ましてや初詣ともなれば、その願い、悪く言えば欲望。この不況下でさらに殺伐としたものではないか。108の煩悩は必ずや大鬼を生み出すぞ!!」

『ならば小生がついて行きますよ』

「バカを言えマタムネ。大鬼とやり合えばその身がどうなるかぐらいわかるだろう。いくらお前さんが強かろうとその力は即ち――」

『しかし、この機を逃したら二度とあの娘は心を開かぬかもしれないのでしょう?』

「だが、お前は……!!」

『なんとかなる。良い言葉ではありませんか。おそらく誰に教わったのでもない、葉さんだからこそ出てくる言の葉。短い間ではあったけれども葉さんと旅をしたこの3日。本では学べぬ葉さんの事を知り小生も少し葉さんを好きになりました』

真っ直ぐに陸を愛して他人を気遣う優しい性根。
人間に忌み嫌われようとも誰かのせいにせずきちんと受け止め自らの強さに変えてしまう。葉王とはまた違った強さを持つ葉はこれから守るものの為に、自分の為に更に強くなる。

葉ならばマタムネのように殺さずに救ってくれるのでは無いだろうか。

葉王に技術的には敵わなくとも心なら勝てるのではないだろうか。

「……マタムネ」

『フッフフ、ですから気にしないで下さい。小生今はただ葉さんを応援したいだけなのです。今宵は年越し蕎麦でもたぐりたかったが、また後悔するよりは余程良い。これは心が決めた事故に』

「……マタムネ」


*****葉とアンナの前にいる桜の刺青をした鬼を煙管を媒介にしたO.Sで斬りつけ転ばせる。
苦しむアンナを抱き抱えて葉が叫ぶ。

「大変なんだ、アンナが!!寺についた途端苦しみだして、オイラのせいで鬼が!!」

『わかっております。ここは小生がなんとかしますから葉さんはアンナさんをみてやって下さい』

「でも!」

「うっ!……う、ぐ……来る……!あたしの中に……!!うあああああ――!!!」

アンナが叫ぶや否や周りに鬼が集まり囲まれた。
その数は十や二十を超え、全ての鬼が葉とマタムネを睨み付けていた。

『グアアアアアアアアアア!!』

桜の刺青をした鬼は周りに集まった鬼を手当たり次第引っ掴み喰い散らかす。
鬼は恐山をさ迷う魂すら引き寄せた。

「鬼が、鬼を喰って!またでかくなっていく!!」

『吸収か。しかしよく来よるウラミに溢れた魂共が。さすが霊場恐山に近いだけあって集まりが良い』

「……!!あ……!」

『(しかしそれ以上に恐るべきはこれを生み出すあの娘の底知れぬ巫力。なるほどこのO.Sまさに大鬼と呼ぶに相応しい)』

鬼を喰う事で鎧を纏った真紅の鬼に成長した。先程の一番大きかった鬼よりも大きく屈強な体を持っている。

「でけえ……」

「……こんなのはあたしも初めて見る。これが、大鬼……!」











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