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『悔いている。小生が?』

「違うのかい?最もだからこそお前は未だに成仏出来ずにおるのだろうがね」

『……当然ではありませんか。何故小生があのお方を、葉王様を尊ぶ心忘れらるる事ありましょう』

百鬼蔓延る平安の世にて親に捨てられ共に生まれた兄弟が死に、病に犯され孤独に死に逝くマタムネを連れていってくれたのが麻倉葉王。
それがマタムネにとってどれ程の救いになったか。

『鬼さえ恐れる鬼神を従え、あらゆる占術とあらゆる巫術をもって世に活躍せし大陰陽師、麻倉葉王。あのお方程心優しい方はおるまい』

「フン……優しいとはよく言うよ。現にお前だって倒したではないか。500年前、麻倉の先祖修験者葉賢と共に。パッチとして転生した葉王を」

『葉王様は優しい。しかしその優しさ故にその強き巫力故に、鬼に心を喰われた。霊視。何も見る事なく、何も聞く事なく他人の心や事柄を把握してしまうその能力。より強ければ強い程否が応にも人の心は流れ込みその深きウラミや怨念はやがて己の心まで蝕み、遂には自ら鬼を生む』

常人ならば発狂し自ら命さえ絶つであろう能力を持ち平静を保ち続けたのは葉王だからなのか。それとも当の昔に狂い心が死んでいたのか。

いずれにしてもマタムネにはわからない。

『あの平安の名にふさわしからぬ鬼哭啾啾たる時代。苦しむ民とその原因を作りし強欲な貴族達の権力闘争の間で葉王様の見た闇はとても計り知れまい』

「そして葉王はシャーマンキングを目指すか。だがそれは優しさではない。弱さだ。確かにそこには我々の想像もつかぬ程の闇があるのだろう。だがハオが弱き己の心に負けた事に変わりはない。お前もそれを承知で戦ったのではないのか」

『無論。小生とてその正義、今も疑うつもりはない。だがしかし、だがしかし未だこの心、大切なものを選べなかった事、悔やんでおるのです』

葉王に救われたマタムネは葉王の心を救う事ができなかった。
人の闇を見続け、遂には人を憎み滅ぼそうと考えた葉王をマタムネは殺す事でしか止める事ができなかった。

そして葉王は未だ止まらない。

幾度となく転生を繰り返し今尚人を憎み滅びを望む。

葉が麻倉の世継ぎとして葉王を倒すためには無限の力と精霊の源を持つ陸と葉王と同じ力を持ち力故に捨てられ恐山で拾われた恐山アンナがどうあっても必要だった。

今目の前で独楽遊びをしている子供達と年端も変わらぬ遊びたい盛りである葉とアンナに、マタムネよりも多くの戦争を見て世界の終わりを垣間見た陸。

ただ、せつない。


*****


世界は何故生まれたのだろうか
天帝が望んだからか
人間が望んだからか
自然が望んだからか

この世界の始まりはなんてこともない少女の歌から始まった
人間に疎まれ、憎まれ冷酷非道の化け物と罵られながらも少女はただ笑っていた

罵詈雑言を吐かれようとも幾度なく殴られようともただ笑う
飄々と受け流し全ての人間を視界に入れず見えない何かと楽しそうに話す少女

そんな少女に友ができた

見えない何かを破壊する嫌いな仕事をしていた女だったけれどその性根は誰よりも優しかった

人間は自分達の住む地を広げる為に破壊する
大地の殆どは既に死に絶え人間は住む地を探し奪い合い破壊し殺戮を続ける
人間を止める事ができなくてあの優しい女は泣いていた

なんて、愚かなのだろうか

死んだのは大地だけでないもう何百年と空は暗く黒い煙に覆われ常に薄暗く夜は本当の闇が襲う
血の匂いを運び続ける風はもう殆ど吹かなくなっている
雨も降らず乾いた大地が水を生み出せる訳もない
人工的に作った水を作る機械は先日敵国に破壊された
それを作っていた人間も全て爆撃によって吹き飛んだ

大地が死に水が死に自然が死んで人が死ぬ
もう人間に生きる術は無いというのに未だ気付かず破壊を続ける

なんて、愚かなのだろうか

大地に血が染み込んだ黒い地面を踏みしめて少女は思う
元から自分を害する人間を憎しみも恨みもしたことはない

ただどうでもよかった

誰かが幸せになろうと不幸になろうと泥水を啜って生きようと自分で命を絶とうと野垂れ死のうと
破壊を続ける愚かな人間などどうでもいい

この星は死ぬ

前の文明が滅んだ時のように弱まった彼らが眠るのではなく死んだのだから

これから先生命は生まれず次の文明も無いだろう

そこで少女はふと思った
少女の知る限りこの星が死ぬのはこの文明に生きた人間のせいだ
ここの愚かな人間達は次に生まれる命も奪うのか
世界の全てを奪おうとしているくせに、まだ足りないのか

ここの人間が死ぬのは自業自得

けれど先の生命には関係ないではないか

そう思って少女は立ち上がる


気丈にふるまえど
ほころんで
無性にブロマイド
欲しくなり
愛は
出会い・別れ
透けた布キレ
恐山ル・ヴォワール












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