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「先程から騒々しいと思っていたが、ついに大事な店のガラスを割りよるとはなんたる鬼畜。元陸軍大将ぐーちゃんの店《土産のぐまくら》第一代目店主、ぐまくらいさお。天に代わって成敗いたす!」
裸足で真剣を構えて葉を追いかけるぐまくらから逃げる。
「ああ――今はそれどころじゃねえのに!!」
ふと、気付く。 かの巨大な鬼は店のガラスを割った。霊は物に触れる事が出来ないが、鬼は触れて尚且つ割っていた。という事はマタムネと同じように実体を持っているのか。 店の外の目の前に鬼がいて、後ろからはぐまくらが迫っている。鬼は葉を狙っていてこのままでは巻き込んでしまう。そしてぐまくらには鬼が見えていない。 ぐまくらを掴んで後ろへ引き倒した。鬼の手がガラスを割り、倒された衝撃でぐまくらの入れ歯が外れた。
「ガッ!ガラスがひとりでに割れよった!これは!ファファリ(タタリ)じゃ!!少年よ!貴様は私をファファリから救ってくれたのであるか!!」
「いや、狙われてんのはオイラだからな。でも多分、タタリってのはほとんどアタリだ」
ぐまくらが持っていた真剣を握り構える。 霊である鬼が物に攻撃出来るならこちらも何とかなるかもしれない。
「少年!!その刀は真剣だぞォ!!」
「(のぞむところだ!)」
葉が鬼に刀も持って構えている姿がアンナの目に入った。 怖い筈なのに、勝てる訳がないのに鬼と対峙する。
「(……何故…)」
「逃げろ!アンナ!!鬼はオイラが何とかする!お前はばあちゃんとこ行ってマタムネ呼んでくるんだ!!」
鬼は鬼でしか倒せない。 このままでは葉が死んでしまう。葉は陸好きな人で、大切な人で唯一の人。 アンナは葉が妬ましかった。アンナにとっての唯一の人である陸はアンナはを選ばず葉を選び、葉は陸を選んだ。 それが妬ましくて仕方がなくて、そしていつかアンナから陸を奪っていくから憎かった。死んでしまえばいいとさえ思っていた。 けれど、陸の唯一である葉が死んだら陸は泣いて傷つくのだろう。そして出来た傷はアンナに癒す事は出来ない。 陸の事を知ってから、彼女の幸せを願うようになった。幸せを願いこそすれ、泣かせる事は本意ではない。葉は嫌いだけれど陸の為に死なせるわけにはいかない。
「……せ」
葉は、死んではいけない。
「かわしなさい!!葉!!」
口をついて出た言葉は、本当に陸の事を思っての事だったのだろうか。
鬼の手と葉の刀が接触し、溶けるか溶けないかのその瞬間鬼の巨体が白んで散った。 全員が全員驚き戸惑うなか最も戸惑っていたのはアンナだった。
*****
家の前で独楽を回し遊ぶ子供達をマタムネと並んで眺めているとマタムネの気分が落ちている気がした。
「どうかしたのかい?マタムネ」
『何がです?』
「トボケなくたっていいよ。私は目が見えずとも、お前のカオ色くらいは伺える。思い出してしまったんだろ。我らが倒さねばならぬ敵、あの男の事を」
『思い出してなどいませんよ。なぜなら小生あのお方の事は一瞬たりとて忘れた事など無いのですから』
忘れられる筈がない。 自らを救ってくれたかの優しい、優しすぎる男の事を忘れる事など決して出来ない。
「フン……あのお方か。つまりそれがお前の忘れたい事というわけだ」
『聞いていたのですね。だが当然でしょう。小生がここへ呼ばれた理由もあれば尚更の事。葉さんの事も、あの娘の事も』
「お前もつくづく不器用な男だよ。まだ、悔いているんだね。500年前のシャーマンファイト。自らとどめを刺した己のかつての主の事を』
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