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庵に入ると中心で《陸》が眠っていた。
陸は静かに《陸》の傍らに胡座をかいて座り込む。陸と違って少しだけ顔色が悪いがそれ以外に差違は無い。

差異はない、けれどひとつだけ、決定的に違うものを上げるとすれば。

《陸》はちゃんとそこに存在していた。
陸が作り出した花畑や草原のように幻影ではなく、実体が、生身の身体がそこにある。

「私の不安、ねえ……」

そんなもの沢山あるに決まってる。
外界には陸が知る人間も陸を知る人間もいない。知っているのは葉と葉の祖父母にアンナだけ。
外界に出れば、陸は葉達と離れれば一人になる。元来、寂しがり屋の陸は辛いと思う。
それに陸の力だって知られれば多くの人間に狙われる。ハオの言う通り、思いだけで何かを成せるのだ。

元々陸の力は無尽蔵。

前のように世界を覆う程の歌を歌わなければ問題ないのだ。だから陸は狙われる。
陸の力を手に入れようとする人間にシャーマン。心無い者は何としてでも手に入れて利用しようとする。
陸は葉の側にいたいと思う。話すと楽しい。帰ると寂しい。何よりも安心出来る。かつて陸が受け入れた少女とは少し違う感情だと陸は理解している。
その感情の名前もわかっている。

──けれど、伝えれない。

陸が狙われれば葉が危険になる。まだまだ弱い葉だけど弱いままで満足しないから、いつか本当に心も体も強くなるだろう。けれど狙われ続ける陸と共にいて、葉は受け入れてくれるのだろうか。

不安で不安で仕方がない。
好きだからこそ、拒絶されるのは辛い。けれど陸のせいで傷付くのは嫌だ。

「あー……もう、どうしろってんだよー……」

わからない。考えても考えても答えは一向に見つからない。八方塞がりだ。
側にいたいと叫んで傷つけたくないと嘆く。
膝を抱えて顔を伏せると目が潤んできた。

「答えなんか出ねえのになあ、考えるのめんどくさくなってきた……」

ハオが来る少し前に風の精が来た。
葉がアンナに会いに行ったんだそうだ。そこでアンナの心が鬼を生み出して葉を襲ったらしいが麻倉の持霊が助けて事なきを得たようだ。

アンナの世界は陸しかいないから、陸の好きな人は許せないだろう。嫉妬の心から鬼を生み出し葉に襲いかかる。
葉なら、アンナを救ってくれる。アンナの世界に入っていける。でもきっとただでは済まない。麻倉の持霊もいるけど、やはり心配だ。

陸は目の前の自分の頬を指でなぞる。魂が抜けているからかひんやりと冷たい体が少し心地いい。

一度体と魂がひとつになればもうここに引きこもることは出来ない。
外界に行けば、逃げ道は無くなる。

「……あ゛あああああ!もう知らん!深く考えんのめんどくさい!なるようになれ!」

葉が拒絶したら、まあ、辛いが仕方ない。
この思いを押し付ける気は無いのだ。傷つきそうになったら、陸から離れよう。

最も、そんなことをすれば葉は陸がどこのいようと追いかけて捕まえて怒るだろうという事を陸は知らない。
その後も決して離してくれないだろう事も。

「ああそうだよ!私は葉が好きだ!畜生、葉のばあちゃんが言ってた通りだよ!!」

ガキのくせに早熟している葉が悪いのだ、と全ての責任を押し付けて陸は叫ぶ。

とりあえず、覚悟は出来た。あとは準備をするだけだ。
精霊に手伝って貰って陸が降りる場所の特定とその後の身の振り方も決めて魂を体に入れる用意もしなければ。

「めんどくせ……」

立ち上がり庵から出て向かうのは自身の魂が眠っている場所。
今まで適当に生きてきたのにいきなり忙しくなり始めた。

「それもこれもハオのせいだ。散々引っ掻き回していきやがって。今度会ったら頭蹴っ飛ばしてやる」

ぶつぶつ言いながら歩く姿は異様だが、陸の口は弧を描く。
ハオにとっては計画外のことだったんだろうが陸が外に出る切っ掛けをくれたのは確かだ。その点に関してだけは感謝をしてやらないこともない。

歩き続けて着いたのは祭壇に似た台の前。上には一部が欠けた状態の陸の魂が浮いていた。
顔の右側と右手に両足が欠けている。右足は脛から下が欠け、左足は太ももから下が欠けている。けれどそれらは当の昔にわかっていた事だ。

「我ながらとんだ寝坊だ。もうちょい微睡みの中にいたかったけど仕方ない。起きるとするか」

陸が眼前の魂に触れた瞬間に、辺りは強い光に包まれた。

光が晴れたその場には祭壇がぽつんとあるだけだった。










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