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『重いのですか。その娘は』
「重い。あの娘は血濡られているのだ。その生まれに。その能力に。その運命に。ヘタをすればお前もただではすまんだろう。手強いよ、アンナは」
世界に絶望して全てを諦めて恨み憎んだ悲しい娘。 娘の、アンナの心を開いたのは陸ただ一人。 陸に出会い、心を開いたことで前よりマシにはなったが未だアンナの世界は陸しかいない。陸以外を拒絶し決してその心を開かない。
だが、それでは駄目なのだ。
どれだけ強い力を持とうとも一人では生きていけないのだ。そして二人でも。 このままではアンナは壊れる。 陸もそれを理解しているが精神世界にいるため話しか出来ない。それでは足りない。アンナには陸以外で現世にいる生身の人間が必要なのだ。 アンナが一人受け入れ、更にもう一人。少しずつ、少しずつアンナの世界を広げていく。
一種の賭けだ。
アンナが陸以外の人間を受け入れなければアンナに先はない。 凪いだ風のような本質と互いに陸を知っていると言うことから葉が選ばれた。
──だが、簡単なことではない。
*****
雪が積もった港でただ一人座り込んでいる葉。 先程出会った少女に散々毒を吐かれ終いには尻込みして心が負けた。 少女と別れて港に行きついたが道に迷ってどうしようもなくなり仕方なく腰を下ろした。
「ああ、怖かった。いきなりオイラの名前呼ばれたからビビって逃げちまったけど。それよりどう考えてもおかしい。いきなり死ねだの殺すだのなんて」
それのこともだが、彼女はかなり気になることを呟いてはいなかったか。葉が陸のダンナだとかなんとか。
「オイラが陸のダンナ?そりゃなれたら嬉しいし幸せだけど、そんな話何も聞いてないしなあ。それに、陸を知ってるってことは陸が言ってたすげえ強い力を持った奴なんか?」
一人で考えても答えは出ない。とりあえず今悩んでも仕方ないと思い立ち上がる。
「ああもうよくわかんねえや。女子ってみんなああなんか?陸以外の女子と話した事ねえからさっぱりだ。ついでに道もさっぱりだ」
葉が歩き出すと横の海辺から突如異形の者が這い上がってきた。 両肩に桜の刺青をして頭には二本の角。歯が鋭く、目は血走っていた。 異形は葉を睨み付け、一言発す。
『死ネ』
「うおおおおお!?また死ねって言われた!!」
葉が逃げると異形の者は追う。葉の二倍はある身長で追いかけられるとかなりの迫力がある。
「ってかなんだこいつ!?霊か!?でも見たことねえ奴だ!!くそっ、式神!!」
葉明と同じように葉っぱを媒介に式神を三体呼び出す。
「へへっ、昔のオイラとはちょっと違うぜ。それ行け、小鬼ストライク!!」
三体の式神を異形の者にぶつけるが片手で払われてしまった。 相手に特にダメージは与えられず、先程と変わらぬ速さで葉を追いかける。
「ああもうなんなんだよこいつは!?オイラが一体何したってんだ!?なんでオイラが狙われなきゃなんねえんだ!?」
打つ手は無くなりただ逃げている葉の後ろからマタムネが現れた。
『葉さん、こんな所にいましたか。なかなか来ないので迎えに来ました』
「いや、それよりこれ……!!」
『ああ、鬼ですよ』
何でもないようにしれっと答えるマタムネ。いきなり言われたことに理解が追いつかない。
『たまにね、現れるんですよ。ウラミや怨念のこもった魂が時を経てそれらが増幅され蓄積されあふれだしやがて悪意の姿となって現れる。それが鬼。まだ小物なれど悲しきかな成敗されるがその定め』
並んで走っていたマタムネが足を止め、迫り来る鬼と向かい合う。くわえていた煙管を手に持ち構えた。 すると煙管が巨大な刀を纏う。 超・占事略決 巫門御霊会
巨大な刀は鬼の体を貫いた。貫かれた所から鬼の体が割れて崩れ跡形もなく消え去った。
『剋殺』
何もわからない葉は足の力が抜け、その場に座り込んでしまった。 そしてこの一部始終を路地裏から静かに見つめる少女がいた。
路上に 捨てくされ やるせなさ 途上に ふてくされ やる気なし 愛は出会い・別れ・透けた布キレ 恐山ル・ヴォワール
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