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ねこまたのマタムネ。
1000年から麻倉家に仕えた古株中の古株。
葉明が葉の旅のお供に、と呼び出したマタムネは読書好きだった。
霊になって1000年であるマタムネは凄まじい力を持っており流石のポンチとコンチも言うことを聞いておむつを穿いた。

そんなマタムネは葉の初めての持霊だった。
まだまだ未熟者な葉にどうこうできるわけがないので形だけ持霊なのだが。


*****


「はははははすげえなマタムネこれ乙斗星だぞ。知ってるか上野から北海道まで直通の寝台特急だ。ロビーカーも食堂車もあるし、なにげにゴージャスなんだぜ。それにツインDXだなんてじいちゃんも意外といい部屋取ったもんだよな」

葉明が言っていた娘に会うために青森へ行く列車の中で外を見ながらはしゃぐ葉。
本を読むマタムネに乙斗星のことを話していると今まで静かに聞いていたマタムネが口を開いた。

『葉さんは意外と電車好き』

「ああそうだな。電車は形も風情も全部ひっくるめて好きだぞ。最近はシャシーが好きだな。モコモコしてて」

『さびしいのか?』

予想外の言葉に、驚く。
これといって特にそういう素振りは見せたことがないし、言ったこともないのに、何故。
それを察したマタムネが口を開いた。

『や、これという理由はないがそこはかとなく感じるものがある。父親の残したレコードとプレーヤー。4年使ってもきれいなままのランドセル。お前さんには友達がいない』

「……まあな。ウチに帰ればじいちゃんもかあちゃんもたまおもいるが確かに友達はいねえ。この能力のせいにはしたくねえけど、おかげで学校には本気で話せる奴誰もいねえからな。話せば話したで特別な目で見られるし、話さなきゃ話さないでウソついてるみたいで嫌だし」

『……陸、という娘は?』

「陸のこと知ってるんか」

『葉明さんに聞きましたよ。特異な力を持っていることや前に何を成したか、どういう娘かも』

葉明は陸のことをほぼ全部話してしまったようで葉は思わず苦笑した。

「そうか。確かに陸は本気で話せるけど《友達》とは違うんよ。逆に《友達》は絶対なりたくないな」

葉がなりたいのは陸の友達ではなく《特別》だ。
隣にいてずっと共に生きていきたい。葉が陸に抱いている感情は友情ではなく愛情だ。陸を愛してるから傍にいたい。
ただの《友達》では我慢出来ない。
陸の《特別》になりたい。

『葉さんは陸という娘に惚れているのか』

「……おう、愛してるんよ。能力のことをどうにかしたいし、陸が前みたいに頑張る必要がないようにと思って最近はシャーマンキングになりたいと思うようになった」

人間が全てを壊した世界で、ほとんどの人間が絶望した中でただ一人希望を捨てなかった。ただ希望を望むだけではなく自らが望むものの為に動いた。
陸は自分が綺麗な世界を見てみたかっただけだ、と言っているけれど葉はそれだけではないことを知っている。
陸を唯一受け入れた人の為、この世界に住まう精霊の為、そして葉たち人間の為。陸を迫害した人間に希望を与えた。
陸が生きた時の更に先の人間を考えて、その人間達が滅んだ後に生まれる人間を考えて。
身体も魂もボロボロにして頑張った陸がまた同じようにならないために。

陸は優しい。

そんなことを本人に言ったら、否定されるけれど。

『葉……』

「まあ、能力の方は言い訳だけどな。どの道苦手なんよ、そういうの。だからその上じいちゃんが言ってた奴に会いに行くなんてもうどうしたらいいかさっぱりわからん。ははは、考えたらまた緊張してきた」

『……』

強い子供だ、とマタムネは思った。
己の力を理解し、他人と自分の違いをしっかりわかっている。
まだ10歳で甘えたい盛りで、友がいない状況をさびしいと思ってるのに力のせいにしない。他人のせいにもしない。誰かを責めることなどせず自分で解決しようとしている。
マタムネはふわりと笑って向かいに座る葉に言う。

『今日はもう遅い。そろそろ寝たらどうだ?』

「だな」


お前さんが愛する
その人は
きっと寂しい思いなぞ
させはしない
少なくとも
少なくとも











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