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何もない精神世界に陸が行き着き早数百年。
陸は一番最初に降り立った地に自らの身体を安置する為の寝台や部屋を造り上げ、そこから四方に西洋庭園、更に離れた所にひとつだけ草庵を設置した。
庭は全て陸が書物の中から知った事であり、今まで決して触れる事の出来なかったもの達でもある。
例え紛い物であろうとも、今まで恋い焦がれた《自然》に触れれば陸は自分の中にある空洞を埋める事が出来るのでは、と思っていたのだが。その空洞が埋まる事は無かった。
埋まる事が無くとも支障は無い。それでも小さな寂しさが陸の胸に蟠りとして残っていた。

その小さな蟠りを抱えながら陸は精神世界で魂の修復を待ち続けている。
精神世界に辿り着いて幾年。陸が救い、陸を救った精霊達が訪れひっきりなしにぐちぐちと説教をしたのはつい先日の事だ。

幾百、幾千と気の遠くなる程の時を過ごし、流れゆく時を見続けた。
移りゆく世界。陸が救った世界は滅び、また新たな文明を築き生命は生まれ逝く。
長い長い時の中でいくつもの出会いがあった。
たまたま陸と波長の合った人間が陸の精神世界にやってきた。それは決して多くはない人数だったけれど、陸の印象に残っているのはとても少ない。
陸が最も印象の残る人物に思いを巡らす。
時は平安と呼ばれ、権を揮い豪遊を重ね民に意を介さない獣が巣くう闇に包まれた時代。貧富の差が激しく遊びまわる貴族に貧困層の民は挽歌を歌う。
鬼哭啾々たる時代を生きた一人の陰陽師の男。
彼がここに来たのは一度きり。特に会話もなさずに別れた。
たったそれだけの出会いでも、陸は男の背負ったものを垣間見た。狂わんばかり、いっそ狂った方が楽だったのではないかと思う程、辛く重たい宿命を背負っていた哀れな男。
幾年か後に、彼は死んだ事を精霊達に聞いた。

その時陸は少しの黙祷を捧げ、また流れゆく時の流れに身を任せた。
それから極々たまに人は来たけど、皆すぐに帰ってそれから会うことは無かった。
極僅かな人と関わり精霊達に今の時代のことを教えて貰って日々を過ごす。

「……前に人が来たのはもう五十年は前だっけか?」

陸はいつも通り、自身以外の人間がいない寂しい空間でのんびりと空を見上げる。
精神の修復は終わっても、魂の修復は未だ終わらない。まだかまだかと待ち続け、もう何年になるのか。時を数えるのに飽いて、一人でいるのにも飽いた。
ふう、と小さく溜め息をつくと視界の端にひとつの影が落ちる。
まだ未発達の体躯を持った少年は陸を視界にとめて、呑気にへらりと笑って言った。

「初めまして、だな。オイラ麻倉葉っていうんよ。お前なんていうんだ?」

久しぶりに客人がやってきた。
やってきた人間がどういう人間かはわからない。
けれども一人でいる事に飽いた陸の胸は興味と歓喜に踊っている。

「私は──」

久しぶりの客人。
あなたは拒絶しないだろうか。恐怖しないだろうか。
飽くる事のない、会話をしてくれるだろうか。

「私は、陸。初めまして、麻倉葉」

叶うならば、沢山沢山お話しよう。



初めましてお客さん、



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